グストイタリア野菜紀行

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episodio53

イタリアにおける野菜の冷凍食品事情

前回のイタリア野菜紀行で、野菜を使ったインスタント食品市場についてお話をしましたが、今回は同じくマーケット需要が大きく伸びている野菜の冷凍食品にスポットをあててみたいと思います。
2013年のデータに、イタリアでは国民一人あたり平均14.6kg/年間の冷凍食品を消費しているという数字が出ています。日本の21.2kgよりも少ないですが、それでも一人暮らしや時間のない共働きの夫婦が増え、日本に似た社会的状況が冷凍食品市場を広げています。
やっとイタリアでも電子レンジの普及率が伸びてきて、数年前までは人口の4%しか電子レンジを所有していなかったのが、今では35%まで上昇しているというデータからも、いかに料理する時間を短縮しようとするイタリア人が増えていることがわかります。

さて、その冷凍食品市場の中でも42%と半数に近い割合を占めているのが、野菜を使った冷凍製品。一言に野菜の冷凍食品といってもさまざまな商品があるので、どんなものがあるか一般的なスーパーを見てみましょう。

もっとも多いのが、やはりミネストローネ(野菜のミックススープ)。キューブ状になったカット野菜です。マイナス18度でIQF急速冷凍され、野菜の細胞を壊さずに収獲したてのものをカットしているので野菜の新鮮な風味が損なわれず、栄養価もほとんどが保たれています。ズッキーネ、ニンジン、タマネギ、カーヴォル・フィオーレ、グリーンピースなどが入っています。味付けはされておらず、このままスープで煮込めばお手軽にミネストローネのできあがりというわけです。

トラットリアでも定番のメニュー、ナスのグリルもあります。グリル加熱したものが冷凍されています。ナスのほかにもズッキーネやペペローネのグリル、さらにはこれらのミックスもあります。こちらも塩やコショウで味付けはされていません。またインゲンも人気商品です。グリーンピースやアスパラガスなど季節野菜が年中食べられるのも冷凍食品の魅力です。

これははなんともイタリアらしい商品なのですが、チコリア(チコリの一種)という菜野菜を加熱しキューブ状にしたもの。イタリアでは菜野菜はクタクタに茹でて、オリーブオイルとレモン、塩をあえていただいたり、ゆでたものをニンニクとオイルで炒めるという食べ方がほとんどです。 これは野菜を洗って、ゆでるという時間が短縮できるわけですね。最近はスチーム加熱や真空パックでの加熱が行なわれ、野菜のうまみや栄養がそこなわれないような調理がほどこされています。ほうれん草や、ビエータなどでも同じタイプの商品がありました。

こちらは野菜のみじん切り。ニンニクやタマネギ、エシャロット、プレッツエーモロ、またそれらのミックスなどがあります。確かにパスタソースを作る時また、肉をいためるのに、このほんの少しでいいタマネギやニンニクを買い忘れているときがあります。そんなときに便利なのがこれ。

魚料理の最後に彩りにプレッツェーモロがほしいときにも、みじん切りの冷凍があれば手軽に使えるというわけですね。

これらの冷凍食品の味はどうでしょうか。いくつか購入してみました。

まずはズッキーネのグリル。450gで3ユーロ(約400円)なり。フライパンにオリーブオイルをひいてを熱し、冷凍のままのズッキーネの薄切りをこのまま6分間加熱します。
もちろん電子レンジでもOKです。

お皿に盛って、冷凍プレッツェーモロのみじん切りをそのままふりかけ、塩コショウをしました。 解凍したズッキーネのグリルは、やはりフレッシュなものよりもグニャっという食感になってしまっていましたが、グリルならではの香ばしい風味が愉しめました。もっと細かくカットしゆでたパスタと炒めるなどの使い方もできそうです。

こちらはチコリアを茹でてキューブ状にしたもの。600gでこちらも3ユーロ。袋に記載してある調理法ではこのままお湯で8分ゆでます。すでに加熱されているのもかかわらず、長時間の茹でるのだなと思われるかもしれませんが、イタリアでは野菜が完全にしんなりするまで火を通すのが一般的な食べ方で、しかも芯がしっかりしていてフレッシュ野菜にしても日本の菜野菜より茹で時間がかかるのです。

さて、8分茹でてオリーブオイルとレモン、塩であえたものがこちら。
もちろんフレッシュの野菜の風味からは劣りますが、しっかりチコリアの食感は残っており悪くない食べ応え。
ビタミンがたっぷり含まれたこの野菜が常時保存しておけ、手軽に食べられるのは魅力ですね。

料理上手のローマのおばさんがある日、カルチョーフィとベシャメルソースののラザーニアを作ってくれたのですが、あまりにもおいしくレシピを聞いたところ、それにはフレッシュのカルチョーフィではなく冷凍のものが使われているということでした。意外に思って理由を聞いたところ、フレッシュのものだとシャキシャキしすぎておいしくなく、解凍したもののほうがラザニアの生地にしっとりとなじむということでした。確かに逆にこの冷凍ならではのしんなりとした食感を利用しておいしくできた一品でした。このように“便利さ”だけでなく、より料理をおいしくするために冷凍野菜が使われてこともあるのです。

冷凍食品の中には、冷凍ピッツァや、フライもの、魚介類なども多種類販売されていますが、野菜の製品がもっとも売れているという、さすが野菜王国イタリア。生活スタイルが変わろうと、おいしくカラダにもよい野菜を欠かさないイタリア人ならではの食スタイルがここにも垣間見られるのです。

ヒサタニ ミカ(野菜紀行レポーター)

京都生まれ京都育ち。
ローマ在住16年。
来伊後、サントリーグループのワイン輸入商社のイタリア駐在員事務所マネージャーを経て、現在は輸入業者のコンサルタント、ワインと食のジャーナリスト、 雑誌の取材コーディネーターとしてイタリア全国に広がる生産者や食に携わるイヴェントを巡る。最近はイタリアでのワインコンクールの審査員も務め、またお 茶や懐石料理のセミナーをイタリアで開催、日本の食をイタリアに紹介する仕事も展開。料理専門媒体にイタリア情報を随筆中。

AISイタリアソムリエ協会正規コースソムリエ。
ラッツィオ州公認ソムリエ。

[ イタリアからお届けする旬の食コラム ]

「ヒサタニミカのイタリア食道楽」

[ 著者紹介サイト ]

「MIKA HISATANI FOOD CONSULTANT」

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