グストイタリア野菜紀行

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episodio52

イタリアのインスタント食品人気No1は野菜のスープ

イタリアは日本に比べインスタント食品の販売量は微々たるもの。もともとスローフードの食文化哲学が浸透し、家族や友人と食卓を囲むことを人生の楽しみととらえる国民性を持つイタリア人にとって、インスタント製品は、豊かさの反対にあるものとして捉えられていました。ところがここ数年インスタント食品業界の売上げは連続して右肩上がり。パルマ大学の調査によると、2012年から比べ売り上げは伸び続け、来年度にはインスタントスープの販売量は3年前に比べ5.7%、売上額は7%アップするという数字が出ています。確かにここ数年でスーパーマーケットにはこの手の新商品がどんどん並びだしています。この背景には生産技術開発や、梱包資材や流通状況の改善などにより、高品質のインスタントメニューが提供できるようになったこと、そして何よりもシングルライフを送る人、忙しくて食事を作る時間のない人が増えているという社会的風潮があるといわれています。

実はわたしは長いイタリア生活の中でインスタント食品は食べたことがなかったのですが、はてどんなものかと、大手有名メーカーのものから無名ブランドまで、食べ比べてみました。

メーカー名:EURO VERDE エウロヴェルデ
商品名:BONTA DI STAGIONEシリーズのMINESTRONE RICCO/RICETTA INVERNALE ミネストローネ(野菜のスープ)
材料:フレッシュ野菜55%(ジャガイモ、ニンジン、スッキーネ、ビエートラ、カボチャ、セロリ、タマネギ、ちりめんキャベツ)、水、カンネンリーニ豆、グリーンピース、エクストラヴァージンオリーブオイル、塩、コショウ、バジリコ、プレッツェーモロ
価格:3ユーロ/1人分/350gr
調理法:レンジで4分温める
賞味期限:約20日

エウロヴェルデという北イタリアにある家族経営の小規模メーカーの商品。インスタント食品といっても、店舗では冷蔵庫で販売されており、購入後も開封までマイナス6度からプラス2度くらいの温度で保管する商品です。スープシリーズは新鮮な野菜をふんだんに使っているのがウリで、野菜のピュレなどもあわせて9種類の商品を展開。また旬の野菜を原材料の中心としているため製品が秋冬と春夏で変わるのもこのブランドならでは。試食したミネストローネ(野菜のスープ)は秋冬レシピシリーズとなっています。かわいいイラスト入りの親しみやすいパッケージで、“フレッシュ野菜のスープ”というフレーズが描かれています。袋を開けると、かっちりとした半透明のプラスチック容器にスープが入っていました。スープに添えるクルトンとパルミッジャーノレッジャーノチーズのおろしたもの、そしてスプーンまでありました。オフィスなどでも特に食器を用意しなくともこのまま食べられるというわけですね。8種類もの野菜の入ったミネストローネ。野菜を洗ったりカットして調理したりという手間が省け、この味の仕上がりであれば価値はありますね。

そして肝心の味は?

これはイケます。おいしい!

ズッキーネやニンジン、ジャガイモなど1cm角にカットされた野菜がしっかり食感があり、またビエートラなどの菜野菜も決して煮込みすぎておらず、冷凍ではなく確かにメーカーがウリにしているフレッシュ野菜からつくられたスープのおいしさがありました。また塩や油加減が多いのでは?という予想もはずれ、家庭料理のやさしい味わい。これを誰かの家で手作りと言って出されたら絶対にわかりません。実はちょっと味見してあとは残そうとまで思っていたのですが、全部きれいにぺロリと平らげてしまいました。十分ワンプレート夕食として使えます。食後の胃もたれもなくて、これはリピートしてしまいそうな予感。

メーカー名:SAB ORTOFRUTTA SAB オルトフルッタ
商品名:大手スーパーSIMPLYのPBブランド PASSATO DI VERDURA (野菜のポタージュ)
材料:野菜54%(ジャガイモ、ポロネギ、ズッキーネ、ニンジン、セロリ、香草、カボチャ、キャベツ、タマネギ、トマト、ニンニク)、豆類9%(グリーンピース、カンネリーニ豆)水、オリーブオイル、塩、コショウ、ローズマリー、バジリコ、ローリエ
価格:3ユーロ/3人分/200gr
調理法:レンジで4分温めるまたは鍋で5分加熱
賞味期限:約10日

こちらもスーパーでは冷蔵庫内で販売され、購入後も一定の温度で保存するタイプの商品。保存剤や着色料などの添加物や動物性油脂が一切なしというのが特徴の野菜のポタージュ。14種類の野菜と豆を裏ごしした滑らかなスープです。このように大手スーパーの自社ブランドシリーズもこのところよく見かけます。プラスチックの丸いケースに入っており、文字通り温めるだけです。さて、お味はどうでしょうか?うーんわりと薄味。例えばこれに高品質のエクストラヴァージンオリーブオイルを上からかけたり、パルミッジャーノチーズをかけるなりして調整するとよりおいしく食べられそうですが、このままだとちょっと物足りない感じでした。でも例えば肉や魚料理の副菜として何か足りないときなどに脇役で出すには使えそうです。

メーカー名:KNORR クノール
商品名: MINESTRONEミネストローネ(野菜のスープ)
材料:野菜42.7%(ニンジン、ジャガイモ、グリーンピース、ズッキーネ、インゲン豆、セロリ、トマト、ポロネギ、ちりめんキャベツ、タマネギ、ほうれん草)、豆、ジャガイモのデンプン、オリーブオイル、小麦粉、塩、バジリコ、プレッツェーモロ、イースト、フルクトース、マルトデキストリン、酢、白ワインエキス、牛乳、卵
価格:1,6ユーロ/2人分/500gr
調理法:鍋で5分加熱
賞味期限:約1年

こちらは缶詰で、スーパーの常温の棚に並んでいる商品。クノールはインスタント食品業界でもトップ企業で、スープシリーズの売り上げも国内市場の20%のシェアを占めています。この野菜スープは11種類の野菜が入っており、保存剤なし、着色料なし、グルテンフリーという商品。1年くらい賞味期限があります。さてお味はどうでしょうか。開けてみるとパッケージのイメージ写真とは結構異なっていて、野菜の姿がニンジンとズッキーネ以外はほとんど見えない!?液体スープがほとんどで、野菜も食感がなくなっており、同じミネストローネといってもエウロヴェルデとは違うタイプ。比較的薄味。賞味期限が他の商品より断然長いので、消費者のニーズによってはかなり価値があると言えますが、味を求める人には不向きかも。

というわけで、味を求めるのか、便利さを求めるのか、購入する人の目的によって適合する商品は変わりますが、今イタリアで売れているのはこういった特徴のある商品です。

-メイド・イン・イタリー
-保存剤などの添加物不使用
-グルテンフリー
-フレッシュ野菜使用
-動物性油脂不使用
-エクストラヴァージン・オリーブオイル使用
-クルトンやパルミッジャーノチーズなどの付属品付き

イタリアでもこのところ産地偽造品が摘発されるケースが多くなっていることもあり、メーカーのメイド・イン・イタリー表示は消費者が安心して購入できる第一のフレーズになっているようです。そして何よりも大切なのがパッケージ。これによって売り上げが大きく変わるほど消費者って商品の見かけに左右されるのですね。価格は賞味期限が短く、フレッシュさをウリにしている製品、パッケージがお洒落な商品ほど高くなり、昔からある缶入りのものや賞味期限が長くなるほど安価となっています。

昨年にはミシュラン3ツ星シェフ、ジャンフランコ・ヴィッサー二のインスタント食品【ピッコリ・ルッシ・クォティディアーニ】が新発売し話題となりました。「エビと舌平目のリゾットカレー風味」や「菊芋のスープ コーヒー風味」など一般のインスタント食品とは一線を引いた7種類の高級ラインの商品展開。きれいなお皿に盛り付けデコレーションなど自分で工夫すれば、ますますご馳走感が増します。1商品3.8から4.4ユーロ(515-600円)という価格帯。家でもお手軽に3ツ星シェフの味が楽しめるというわけです。

データ:
 エウロヴェルデ
 http://www.bontadistagione.it/
 SABオルトフルッタ
 http://www.sabortofrutta.it/sab/azienda.html
 クノール イタリア
 http://www.knorr.it/home
 ピッコリ・ルッシ・クォティディアーニ
 http://www.piccolilussiquotidiani.it/

ヒサタニ ミカ(野菜紀行レポーター)

京都生まれ京都育ち。
ローマ在住16年。
来伊後、サントリーグループのワイン輸入商社のイタリア駐在員事務所マネージャーを経て、現在は輸入業者のコンサルタント、ワインと食のジャーナリスト、 雑誌の取材コーディネーターとしてイタリア全国に広がる生産者や食に携わるイヴェントを巡る。最近はイタリアでのワインコンクールの審査員も務め、またお 茶や懐石料理のセミナーをイタリアで開催、日本の食をイタリアに紹介する仕事も展開。料理専門媒体にイタリア情報を随筆中。

AISイタリアソムリエ協会正規コースソムリエ。
ラッツィオ州公認ソムリエ。

[ イタリアからお届けする旬の食コラム ]

「ヒサタニミカのイタリア食道楽」

[ 著者紹介サイト ]

「MIKA HISATANI FOOD CONSULTANT」

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