グストイタリア野菜紀行

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episodio51

進化する大手スーパーの差別化戦略「カルフール・マーケット」訪問レポート

継続する不景気の影響で、イタリアのスーパーマーケットの総売り上げは減少しているものの、高級食材やオーガニック、地産地消、環境保護優先食材の売上げは上昇しているという話題があらゆるメディアで取り上げられています。クリスマス、ニューイヤーで何かと大勢でご馳走を食べることが多いこの時期、業界ではますます厳選食材の売り上げが伸びています。イタリアでは全体の食糧品消費量は減ったものの、その分高品質食材を購入するようになっているようです。

ではなぜ景気沈滞にもかかわらず、ディスカウントスーパーや大手スーパーマーケットチェーン店が苦戦し「イータリー(日本のイータリーとは形態が異なり青果や魚肉なども販売しています)」や「カンパーニャ・アミーカ(地産地消製品のみを取り扱った農家直販市)」を代表とする厳選食材マーケットが繁盛しているのでしょうか。

その理由の1つに、イタリアでも日本と同じく産地偽装商品が多く出回っているということがあります。スペイン、ギリシャ、アフリカ、トルコなどで生産された生鮮・加工食材をあたかもイタリア産のごとく販売されている、または産地がはっきり商品ラベルに記載されていないという食材の摘発事件が続出し、消費者や生産者の不信感を募らせたということがあります。そしてさらにその他の理由として、外食を減らして節約をはかり、その代わり家庭ではおいしいものを食べるという、日本でも流行した“おうちごはん”の充実があります。この暗い景気のトンネルの中で、他のものはあきらめてもせめておいしいものだけは人生に欠かしたくない!という国民的な食いしん坊精神も手伝って、不景気に合わせた購買力を身に付けたのが近年にみるイタリア人消費者なのです。

年末も押し迫った12月初旬、この現象を象徴するような「カルフール・マーケット」がローマの住宅街にオープンしました。「カルフール」とはヨーロッパ最大のスーパーマーケットチェーンで、イタリアだけでも全国に1116店舗を展開しています。カルフールチェーンの中でも特に生鮮食品コーナーが充実しているという噂をききつけ、さっそく訪ねてみました。

1400㎡もある店舗の一番最初の売り場コーナーは野菜です。大抵の野菜が計り売り形式です。
普通のスーパーでは見かけないような種類の豊富さ!ジャガイモだけでもいろいろな種類があります。ちりめんキャベツやビエートラなどの季節の野菜が割り引き商品になっています。

商品の展示の仕方もよく考えられています。

どんどん売れた野菜を補給している店員さん。野菜が傷むので一気に大量に並べず売れた分だけ追加していました。大手スーパーでは珍しく商品の姿形をかなり重視しているということです。

こちらは販売量が確実に伸びているカット野菜。ズッキーネやカーボルフィオーレが、パックをあけたらすぐにグリルやスープ、フライにできるようになっています。イタリア人も忙しい人が増えているということでしょう。

同じカット野菜でもこちらは過熱されたもの。真空パックになっています。これらはイタリアの冬の定番料理、スープに入れるものです。“ZUPPE  PRONTE” 冷蔵庫の上に即席スープとあるように既に火が通っているのでブイオンだけ自分で準備し、そこへこれらの野菜を入れ完成します。それにしてもスーパーで野菜販売用の扉つき冷蔵ショーケースがあるのは初めてみました。

こちらはさらに進化したインスタントスープコーナー。カルフールのプライベートブランドで数種類のスープを展開しています。トスカーナ風スープ、ミックス野菜のクリームスープ、冬野菜のスープなどなど。これらは数分レンジで暖めるだけで食べられるようになっています。

果物コーナーも広い広い。冬は柑橘の収獲時期でシチリア産のレモンが山盛りになっていました。
野菜にしても果物にしても、必ずきっちりと産地が明記してありました。

そしてほんとにオーガニック製品がたくさんあります。BIO製品コーナーというのがありBIO製品でないコーナーと同じくらいの売り場面積が設けられ、オーガニック野菜や果物がずらりとパック入りで並べられていました。BIO表示だけでなく、これでもか!というほどイタリア産ということがPOPに書かれています。よく見るとナス1個が400円!高い!にもかかわらずこれほどBIOコーナーが広いということは売れているからなのでしょう。
生鮮食材以外にも果汁、オリーブオイル、トマトソース、豆、パスタ、小麦粉などなどBIO製品のオンパレード。イタリアはヨーロッパの中でも最もオーガニック製品の消費量が高いといわれています。

スパイスコーナー。全て計り売り。野菜料理や肉料理には、クミンやナツメグ、八角などよく香辛料が使われます。

パンコーナー。まるで街角のベイカリーのようなお洒落な売り場。昔はパン業者が卸していましたが、今は売り場内で焼きあげアツアツのものを販売するというのも、イータリーをはじめスーパーマーケットでのちょっとした流行りとなっています。

生パスタもこれだけの種類。レストランに行かなくとも“おうちごはん”でステキなご馳走を実現できる便利な商品。

魚売り場では、養殖ものとそうでないものをきっちり明記されています。衛星のためか、魚の並べられている台には自分の番号を取らないと近づけないようになっています。自分の番が来たら、魚を見ながら選び、その場でさばいてもらうというシステム。徹底していますね。

精肉屋さん。一般のスーパーではすでにパックに肉が詰められて販売されていますが、ここでは高級牛の計り売りをしていました。

ハム売り場ではおなじみのパルマ産生ハムだけではなく全国の郷土サラミなどもあり、セレクションが幅広く、スーパーマーケットというよりまるで高級食材店のよう。

スペイン産の黒豚ハモンセラードの試食売りをしていました。

このカルフール新店舗のもうひとつの売りはワインコーナー。北から南までのイタリアこだわりワインがずらり。ワイン屋さん顔負けの品揃えです。ドンペリニヨンなどシャンパンやサッシカイアなどのイタリア高級ワインあり。大手メーカーの安ワインしかないというスーパーの概念を覆す戦略がここにも。

そして!寿司&刺身がありました。ビールはアサヒ、キリン、サッポロと大手3社揃って並んでおりました。パリやロンドンのスーパーではお寿司が並ぶのは当たり前かもしれませんが、ローマにはなかったのです。これぞ他店舗にはない品揃え。

青空市場、精肉屋、魚屋、ワインショップ、寿司屋に行かずとも、全てここ1店舗内で揃うというグルメ客ニーズに合わせた「カルフール マーケット」。イタリアの食業界の今が一目瞭然でした。景気がよくとも悪くとも、差別化戦略がどんどんはげしくなるイタリアのフード業界。これからどんな展開があるのか、一消費者として楽しみです。

データ:
カルフール イタリア
http://www.carrefour.it/

ヒサタニ ミカ(野菜紀行レポーター)

京都生まれ京都育ち。
ローマ在住16年。
来伊後、サントリーグループのワイン輸入商社のイタリア駐在員事務所マネージャーを経て、現在は輸入業者のコンサルタント、ワインと食のジャーナリスト、 雑誌の取材コーディネーターとしてイタリア全国に広がる生産者や食に携わるイヴェントを巡る。最近はイタリアでのワインコンクールの審査員も務め、またお 茶や懐石料理のセミナーをイタリアで開催、日本の食をイタリアに紹介する仕事も展開。料理専門媒体にイタリア情報を随筆中。

AISイタリアソムリエ協会正規コースソムリエ。
ラッツィオ州公認ソムリエ。

[ イタリアからお届けする旬の食コラム ]

「ヒサタニミカのイタリア食道楽」

[ 著者紹介サイト ]

「MIKA HISATANI FOOD CONSULTANT」

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