グストイタリア野菜紀行

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episodio47

イタリア版 銀の匙 か?! ローマガリバルディ国立農業・畜産専門高校訪問

イタリアでは14歳で中学校を卒業すると、大学へ行くことを前提とした普通高校か、技能別専門高校(3+2年制)へ進みます。後者は、料理や工業、福祉、商業などの専門技術を身につけることが目的で、卒業後は資格免許がもらえすぐに専門職につける教育機関です。3年で終わる生徒もいれば、もっと高い技術を習得するためにさらに2年残る者もいます。農業もまた専門高校で学ぶ分野の1つ。

どんな授業が行なわれているのか、ローマでもっとも大きな農業・畜産専門高校ガリバルディを訪問してきました。この学校で学ぶ学生は約1000人。半数が女子生徒です。ちなみに10年前までは大半が男子生徒だったそう。農業も育産も今では性別関係なく能力が発揮できる分野となっているという証です。

理論はもちろん、充実した実践の現場があることでも知られるガリバルディ専門高校。学長秘書のアンナリーサさんの案内で、学校内を見学してきました。

学校の門をくぐるととにかくその広さに驚きます。畑にオリーブ園、ワイン用ぶどう園に、農場、校舎をあわせてざっと67ヘクタール。農産物を育てるだけでなく、それを加工するワイン醸造所、オリーブオイル搾油所まであります。

さらには四〇頭の牛から牛乳を搾る工場、そのミルクからチーズをつくる工場まであるのです。なんと牛を出産させる小屋、生まれたばかりの赤ちゃん子牛の檻までありました。牛だけでなく馬も飼われています。その施設の充実ぶり、そして高校生からこれらの実践を学べるという教育システムにも驚きました。

学校の畑にはおいしそうな夏のトマトやズッキーネが育っています。夏休みというのに何人かの生徒たちが手入れしていました。月に一度学校の広場で、生徒たちが生産した野菜や果物、花、ワインやオリーブオイル、チーズ、牛乳までを販売するマーケットが開かれます。もちろんこれも授業の一環です。

第一次世界大戦よりも前、1872年に創業したこの高校には、その当時実際に使用されていた農業機械のコレクションが保管されています。木製のトラクターから汽車みたいに巨大な農耕マシンまで錆びてはいるものの、完全にその姿が保存されており近くで見るとすごい迫力です。スイス製のものからフィアットまでメーカーもさまざま。これらの貴重な機械が屋根はついているものの、雨ざらしの倉庫にドカンと無造作に並べられていて、野良猫たちがトラクターの上でのびのびと昼寝していました。日本ならこれだけで博物館が建てられていそうなものですが、こちらはいかにもイタリア的な粗野で豪快な光景。さらに校舎の中にはこれらのトラクターに乗って農民達が仕事をしている白黒の当時の写真も展示されており、珍しいその時代の農業の様子を見ることもできました。

苗木仕立場や植物園もあります。ここを卒業した生徒達は、畜産家や農業家だけでなく、自然公園や庭園の設計プロジェクトに携わったり、生産組合や農業学校で指導をしたりとありとあらゆる職に就いています。

失業率12%を超えるイタリア。若者の失業率が43%を越える今、農業界への就職に関心が高まっています。ここ数年、大学を卒業した高学歴の若者が、ワイナリーや農家に就活するという人が急増しているのです。大自然の中で汗をかきながら畑仕事に励み、将来は農業やアグリトゥーリズモで自立を目指すなど、その進路はさまざまです。たしかに最近ではイタリア各地で大人気のファーマーズマーケットなどでも、農家のおじさんたちに混じって、野菜を販売する若者や、パテやジャムのブランドを立ち上げて商売を展開している若い女性などを結構見かけるようになりました。長い不況のトンネルががかえって若者に農業に目を向けさせたということでしょうか。だとすればイタリアの農業も少しずつ変化しているのかもしれません。これから若い農業家によって新しい農業のスタイルができるとすれば、それは農業国であるイタリア全体の経済に少しでも明るい展望が期待できそうです。久しぶりにそんなポジティブなイタリアの未来像を考えながらガリバルディ高校の門をあとにしました。

データ:

ISTITUTO TECNICO AGRARIO STATALE
G. GARIBALDI
Via Ardeatina 524 – 00178 Roma
www.itasgaribaldi-roma.it

ヒサタニ ミカ(野菜紀行レポーター)

京都生まれ京都育ち。
ローマ在住16年。
来伊後、サントリーグループのワイン輸入商社のイタリア駐在員事務所マネージャーを経て、現在は輸入業者のコンサルタント、ワインと食のジャーナリスト、 雑誌の取材コーディネーターとしてイタリア全国に広がる生産者や食に携わるイヴェントを巡る。最近はイタリアでのワインコンクールの審査員も務め、またお 茶や懐石料理のセミナーをイタリアで開催、日本の食をイタリアに紹介する仕事も展開。料理専門媒体にイタリア情報を随筆中。

AISイタリアソムリエ協会正規コースソムリエ。
ラッツィオ州公認ソムリエ。

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