グストイタリア野菜紀行

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episodio44

ソフィア・ローレンの野菜料理 著書「キッチンより愛をこめて」より

イタリアには後にも先にももうこれ以上の大女優は存在しない、といわれるカリスマ的スターのソフィア・ローレン。“生きた芸術品”と賞賛され、今でも世代を超えて圧倒的な人気を誇る。

マストロヤンニやクラーク・ゲーブル、ケリー・グラントなど、世界を一世風靡した同僚達はとっくにこの世から去っていったにもかかわらず、いまでも現役バリバリというところもまた彼女の普通でないスケール感がある。先月行なわれたカンヌ映画祭では映画監督の息子とレッドカーペットを飾り、今年80歳とは思えない美貌が称えられたのも記憶に新しいところ。72歳でヌード写真を出したり、息子の映画に出演したりと、ますます輝きを増している。

そんなソフィア・ローレンが妊娠中に、体調不良で女優としての仕事ができず退屈をもてあましていたことから凝りだしたのが料理である。1971年には彼女のレシピを集結した料理本「IN CUCINA CON AMORE キッチンより愛をこめて」が出版された。

世界各国で訳本が出され、日本でも発売されたが現在では絶版になっているらしく、これは本当に残念なことである。イタリアでは昨年に新版が発売された。新版といっても中身は一切改定されず71年の初版のままである。
ソフィアローレンの出身地であるナポリの郷土料理から、イタリア伝統料理、彼女が発案し名前をつけた料理、海外で出会った外国料理、などなど、いろいろなカテゴリーから彼女が好きな料理のレシピ掲載されている。カラフルな70年代ルックのソフィアの写真もたくさん載っていて、それが今でも驚くほど新鮮でとってもかわいい。コンテンポラリーアートとして愉しめる。彼女はよく“イタリアの太陽“と称えられるけれど、見た人が焼けつくされてしまうようなこの笑顔は確かにすごい迫力だ。砂場で遊ぶ子供のようにピザ生地を広げるソフィア。鶏たちとたわむれるソフィア。イタリア食材の豊かさや料理をすることの楽しさがポートフォリオからほとばしるように伝わってくる。

また料理に関する痛快なコラムのページもあって読み物としても面白い。レシピも順番に作り方が列挙してあるのではなく、その一皿にまつわるエピソードや、なぜその料理が好きなのかとか、エッセイ風になっていてどんどん読み込んでしまう。ちょうど女優としても絶頂期に書かれたものなので、彼女の手料理を食べた世界の大スターがレシピの中に出てきたりと、料理本を超えた1冊なのだ。
1956年ソフィアの初めてのアメリカ映画の撮影中、ケリー・グラントに会ったときに出された料理があまりにおいしく食べ過ぎてしまい、彼の目の前でゲップをしてしまったという“ロブスターカクテルサラダ”のレシピや、サハラ砂漠にジョン・ウェインとロケに行ったときにソフィアが地元の大富豪からふるまわれたという、大山羊一匹をそのまんまローストにした“メコウイ“という40人前のレシピなど、こんなの絶対家で作れないよ!と笑ってしまうレシピがあると思えば、ナポリではたっぷりとニンニクを入れるとあるトマトソースのスパゲッティーなど、マンマの定番料理が掲載されているところも彼女らしい。次はどんな料理とエピソードが出てくるのかと、わくわくしながらページをめくってしまう。

それにしても彼女の自宅に招かれ、VOGUEの表紙を飾ったクレオパトラみたいな神々しいディーバから、手料理をふるまわれるという贅沢。招待客たちはどんな気持ちでオスカー女優の手料理、それに合わせられたワインを嗜んだのか。どんな高級レストランよりも貴重なディナーだっただろうなーと、70年代のハリウッドで繰り広げられたソフィアの手料理の宴会に自分も招待されたような気分になってページをめくる。
この本は面白いだけではない。パスタをゆでるときのナポリに伝わる8つのコツや、招待客の人数に合わせたサービスの仕方、ワインの合わせ方などが細かく書かれており、なかなか真剣な本でもある。ソフィア・ローレンが料理に情熱をかけたのはナポリ人の血からだけではない。彼女は戦争体験者で、食物そのものが幸福のジンボルであった幼少時代が影響していると本人が綴っている。ソフィアがこの世で一番おいしいと断言する食べ物は、なんと羊のミルクだそうだ。戦時中に食べるものがなく、ナポリ郊外の小さな村のトンネルの中での避難生活で、空腹の極限の中、時々羊飼いに飲ませてもらったのが搾りたての温かい羊乳であり、その後セレブになってからどんな素晴らしい料理を世界中で味わってもこれを超えるものはなかったというエピソードも。
食いしん坊で好奇心旺盛、友人達を家に招くのが大好きという、大女優のそれとはまったく別のソフィアローレンのキャラクターがこの本から読み取れて、以前にも増して彼女のファンになってしまった。ソフィア主演の名画のように40年以上の歳月がたっても、未だ新鮮な感動を与え続けるこの1冊は今や私の一番お気に入りの料理本なのである。

では最後にこの1冊からソフィアの野菜料理2品をどうぞ。

昔風カーボルフィオーレ炒め

材料(4人分)
カーボルフィーレ  1.5kg
干しブドウ     大さじ2杯
松の実       大さじ2杯
ニンニク      2かけ
イタリアンパセリ
オリーブオイル
塩コショウ

鍋に湯をわかし、塩を加えたカーボルフィーレをアル・デンテ、つまり固めに茹でます。
小さくカットしたカーボルフィーレを、オリーブオイルでニンニクを黄金色に炒めたフライパンに加えます。ここへ干しブドウと松の実も加え、塩コショウで味を調えます。約25分くらい炒めたところでイタリアンパセリをみじん切りにしたものを最後に加えます。


昔風カーボルフィオーレ炒め

材料(6人分)
フィノッキオ   6個
塩漬けアンチョビ(骨を抜いたもの) 3-4切れ
香草風味のワインビネガー  ½カップ
辛子
タバスコ
オリーブオイル
塩コショウ

熱したフライパンにオリーブオイルをいれ、さっと塩を洗い流したアンチョビを炒めます。ここへ4つ切りにしたフィノッキオを加えます。塩コショウをし、ワインビネガーを振りいれます。香草でアロマがつけられたものがいいですね。ここで少々辛子も加えましょう。フィノッキオがやわらかくなるまで炒めます。でも決して火を通しすぎてはいけません。最後にお好みでタバスコを。


データ
『IN CUCIINA CON AMORE イン・クチーナ・コン・アモーレ』
SOFIA LOREN
Rizzoli出版
ISBN 978-88-17-06732-4

ヒサタニ ミカ(野菜紀行レポーター)

京都生まれ京都育ち。
ローマ在住16年。
来伊後、サントリーグループのワイン輸入商社のイタリア駐在員事務所マネージャーを経て、現在は輸入業者のコンサルタント、ワインと食のジャーナリスト、 雑誌の取材コーディネーターとしてイタリア全国に広がる生産者や食に携わるイヴェントを巡る。最近はイタリアでのワインコンクールの審査員も務め、またお 茶や懐石料理のセミナーをイタリアで開催、日本の食をイタリアに紹介する仕事も展開。料理専門媒体にイタリア情報を随筆中。

AISイタリアソムリエ協会正規コースソムリエ。
ラッツィオ州公認ソムリエ。

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