グストイタリア野菜紀行

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episodio45

医薬植物 + リキュール = カラダによくておいしい夏のカクテル

夜の長くなる夏のイタリアでは、ディナーのあとも友人や恋人とたちとカクテルやリキュール片手におしゃべりにふけこみます。
「酔っ払うための飲み物ではなく、おいしくてリラックスできる質のよいカクテルを作るのが僕の仕事です。」というローマのバールマン、ジョルジョ・ペイスさん。バジリコ、ミント、ローズマリー。ジョルジョさんのバーカウンターには水水しいグリーンのハーブがずらりと並びます。

ロンドンやNYでもバーテンとして働いた経験のある彼は「カクテルという飲み物は若者の間ではリキュールやアルコールの強いドリンクとして親しまれているけれど、僕は最高級のお茶のようなカクテルが作りたいんです。」

「イタリア、特に僕が生まれ育ったサルデニアではハーブは毎日の生活になくてはならないもの。料理や飲み物にほどよいアクセントをつけてくれるだけでなく、体によいとされるいろいろな作用があるんです。」と話すジョルジョさんは、医薬植物の効用を勉強し、自分で育てたハーブでホームメードシロップも作っています。カモミッラ、ローズマリー、生姜にカルダモンのシロップは特によく使うアイテム。

たしかに、カクテルというよりお茶の世界に近い材料です。

ハーブといっしょに乾燥させたシチリアの赤いオレンジ“アランチャロッサ”やレモンなどのドライフルーツも自家製。これはグラスに沈めフレーバーティーのごとくカクテルの中でじわじわとオレンジの味わいが広がるというもの。自家製シロップやドライフルーツだけでなく、もちろんフレッシュの香草もふんだんに使います。その独自のスタイルは口コミでも広まって、ジョルジョさんがシェイカーをふるローマのバーはいつも超満員。

そのローマのテラスバー『ラ・テラッツァ』で、早速人気メニューのバジリコと生姜のカクテル【ZEN SOUL SOUR】を注文してみました。バジリコ、生姜、自家製カモミッラシロップ、ビターリキュール、トリプルセック、ウオッカ、オレンジ果皮が入っています。

なんという可憐なデコレーション!妖精が今にも飛び出してきそうなグラスの演出。表面に顔を近づけると、フワーッとバジリコと生姜のなんともすがすがしい香りが。一口飲むと、リキュールの甘苦さに、フレッシュなバジリコと生姜、オレンジの風味が混ざり合い口の中でフワーっと小さな宇宙が広がりました。アルコールの勢いもほとんどなく、大人のフレッシュジュースという感じ。いつもトマトとモッツァレラチーズと食べていたバジリコもこんな味わい方があるなんて!食後だけでなく、午後からアペリティフとしても飲みたくなる清涼ドリンクです。

「おいしいー」を連発していると、ジョルジョさんが今度はイチゴとバジリコとゴマのカクテルを作ってくれました。これまた夏らしいフルーツとハーブ味たっぷりの爽やかな味わい。

イチゴとバジリコとゴマ。飲み物にするとこんなに相性がよくなるのですね。地域の食育イベントや農業生産者のプロモーションにも参加し、ハーブやフルーツをたっぷり使ったカクテルをふるまうジョルジョさん。

差し出された名刺を見ると“ALCHEMIST BARTENDER アルケミスト バーテンダー”(錬金術バーテンダー)と書いてあります。“アルケミスト”とは、古代ギリシャ時代には存在していたという、飲めば人体を永遠不滅に変えて不老不死となるエリクシール(万能薬)を作る人のことだそう。まさにカラダの底から元気がわいてくるようなカクテルを発案するジョルジョさんのこと。これからもどんなエリクシールを作り出してくれるのか楽しみです。


データ
『IN CUCIINA CON AMORE イン・クチーナ・コン・アモーレ』
SOFIA LOREN
Rizzoli出版
ISBN 978-88-17-06732-4

ヒサタニ ミカ(野菜紀行レポーター)

京都生まれ京都育ち。
ローマ在住16年。
来伊後、サントリーグループのワイン輸入商社のイタリア駐在員事務所マネージャーを経て、現在は輸入業者のコンサルタント、ワインと食のジャーナリスト、 雑誌の取材コーディネーターとしてイタリア全国に広がる生産者や食に携わるイヴェントを巡る。最近はイタリアでのワインコンクールの審査員も務め、またお 茶や懐石料理のセミナーをイタリアで開催、日本の食をイタリアに紹介する仕事も展開。料理専門媒体にイタリア情報を随筆中。

AISイタリアソムリエ協会正規コースソムリエ。
ラッツィオ州公認ソムリエ。

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