グストイタリア野菜紀行

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episodio43

ローマテスタッチョ市場 春野菜レポート

日本のゴールデンウィークと同じく、イタリアでも5月のメーデーの前後は祝日の多い時期。ポカポカ陽気の春の連休は街中の公園へピクニックにお弁当持参で出かける人であふれかえります。さてこの初夏のピクニックで、ある物を食べる習慣があります。それは生のソラマメとペコリーノチーズ(羊のミルクのチーズ)。これにローマだとカステッリなどの地元のワインをあわせます。ソラマメを生で食べるって?と思った人、ぜひ試してみてください。旬の豆はフレッシュで歯ごたえよく、それにペコリーノチーズのコクと塩っけがほどよく合って、素朴ながらも食べ出したらやめられないおいしさなんです。まだ日焼けしない程度のやわらかい日差しの下、ローマっ子たちが芝生に寝転がっておしゃべりしながらソラマメの鞘から豆を取り出してチーズのかけらと一緒にムシャムシャと食べる、こんな平和な光景が公園のあちこちで見られます。

そんな春の青空市場ではどんな旬の野菜があるのでしょうか。

市場に入ってすぐ、どかーんと積まれているのが目に入るのは鞘つきソラマメ。日本でもおなじみのソラマメは古代ローマ時代からこの国で食べられていました。特に南イタリアではソラマメを乾燥し保存食として年中台所にある常備食材です。

プーリア州の郷土料理にソラマメのピュレがあります。乾燥ソラマメをテラコッタというレンガ壺の中で茹でてつぶし、ピュレ状にしたものに地元のもう1つの名産であるオリーブオイルをたっぷりかけた一品。これにチコリをいためたものや生タマネギを添え、シャキシャキとした歯ごたえのよい野菜をピュレと一緒に食べます。昔プーリアを訪れたときに初めて食べたのですが、このジャガイモよりも苦甘いソラマメのピュレにたーっぷりとオリーブオイルをかけた、肉や魚料理にも勝るこの素晴らしい料理に病みつきになりました。ソラマメそのもののうまみを一番感じられる、一番好きな食べ方です。

ソラマメと同時に出回るのがグリンピース。イタリアではこうして市場でもスーパーでも鞘ごと売っているので料理するのに下準備がいるのですが、すでに豆だけ取り出されて販売されているグリンピースとは比較できないうまみがあります。パツっと鞘を割り豆を取り出して食べてみると、加熱するのがもったいない水水しさと甘みがあります。このプツプツと一粒一粒かみしめる快感!イタリアでは炒めてパスタに絡めるのが一般的ですが、ローマではグリンピースとイカと一緒に炒める郷土料理があります。どんな食べ方にしても、缶詰や冷凍のものとはちがい旬の甘みを感じるグリンピースを味わえるのはまさにこの時期だけですね。

イタリアの山菜、アスパラガスもこの季節かなりの量が消費されます。こうやって大きな束で売っていてミラノなど北部ではリゾットに、またパスタにも絡めていただきます。単純に茹でてオリーブオイルとレモンであえたものもアスパラガスのうまみを十分愉しめます。

平たく細長い豆はモロッコインゲン。鞘ごと食べるのですが、これは調理するのにかなり時間がかかるほどがっしりと肉厚なたくましい豆です。一旦茹でたものをトマトソースで煮込んだり、またはオリーブオイルとレモンでからめて副菜にしたりします。

サヤインゲンもモロッコインゲンと同じような食べ方をします。

こんな形の野菜を発見。八百屋のおじさんに聞いてみると夏ズッキーニとのこと。これどうやって食べるのでしょうか?!

そしてアグレッティ。和名はおかひじき。イタリアではローマの野菜として知られています。修道士のひげという別名があるように、ほんとにひげみたいな形。プリプリした面白い食感で味はほうれんそうに似ています。これを茹でてレモンとオリーブオイル、塩であえていただきます。

ちっちゃなアーティチョークも最近市場で売り出されるようになりました。これは周りの固い葉を取り除き中心部分だけをオイル漬けにしたり、このままオーブンで焼いてオリーブオイルをかけて食べたりします。大きいアーティチョークより苦味が少なくやさしい味わい。

イチゴも大量に出回るフルーツ。売り場のところからは春の象徴のようなあまーい香りが漂っています。ジャムように数キロ買っていく人も。

春は誕生の季節。まさに生命の息吹を感じる野菜が多いですね。こんな野菜たちから春のエネルギーをもらえるような気がしていつも以上にもっともっと食べたくなるのです。

ヒサタニ ミカ(野菜紀行レポーター)

京都生まれ京都育ち。
ローマ在住16年。
来伊後、サントリーグループのワイン輸入商社のイタリア駐在員事務所マネージャーを経て、現在は輸入業者のコンサルタント、ワインと食のジャーナリスト、 雑誌の取材コーディネーターとしてイタリア全国に広がる生産者や食に携わるイヴェントを巡る。最近はイタリアでのワインコンクールの審査員も務め、またお 茶や懐石料理のセミナーをイタリアで開催、日本の食をイタリアに紹介する仕事も展開。料理専門媒体にイタリア情報を随筆中。

AISイタリアソムリエ協会正規コースソムリエ。
ラッツィオ州公認ソムリエ。

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