グストイタリア野菜紀行

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episodio32

「すべての道はローマに通ず」古代ローマ時代のアッピア街道で子供の食育『HORTUS URBIS』はじまる

 

ローマから南部に伸びる“アッピア街道”。これはアッピウス・クラウディウス帝が建設プロジェクトを立て、紀元前312年に工事が始まったローマで最初の大きな道路です。60年かかって完成されたこのアッピア街道は、ローマから南イタリアプーリア州にあるブリンディシ県まで続いていています。未だに2000年前の墓碑やカタコンベが保存されており、毎日のようにたくさんの観光客が訪れます。道路自体も相当古く、ローマ時代に建設された当時の石畳が残っている箇所もあり、ふちが磨り減って丸みを帯びた石や、馬車の跡が残っている石が街道の長い歴史を物語っています。このローマ時代の高速道路を通っていろいろな人、物資がローマ帝国に入ってきました。それほど由緒のある遺跡地区ですが、道路沿いには野放しにされている土地も多く、文化遺産がそこじゅうにごろごろとあるローマでは、何千年の歴史ある土地でもすべて適切な手入れがされているわけではないのです。

 

その放置地区に目をつけたローマの建築家協会【STUDIO UAP】が、昨年アッピア街道の最終地点の近くに『HORTUS URBIS(オルトゥス・ウルビス)』という子供の食育のための広場を開設しました。ラテン語で“都市農園”という意味のこの広場では毎週末、3歳から10歳までの子供を対象に、多彩な食育イベントが行われています。

 

農園には225平方メートルの畑があり、25種類の野菜や花が栽培されています。畑は作物を収獲することが目的ではなく、野菜や花の形や匂いを子供達に見せるための展示用として育てられているので野菜たちは伸び放題になっているのですが、普段見ることのないルーコラやフィノッキオの花まで観察することができるのです。

写真左上から、カーヴォロ・チコーリア、
プレッツェーモロ(右側)・フィノッキオ
グリンピースとルーコラ(右側)・ボラージネ
カモミーユ・ネギ、最後にルーコラの花

農園の手入にれはボランティアのおじさんが毎日やってきます。アントニオさんは定年退職後、大好きな畑仕事ができるならとここの仕事をはじめたそう。毎週末やってくる子供たちや、その両親たちにも野菜のいろいろな話を丁寧に教えてくれ、今では『HORTUS URBIS(オルトゥス・ウルビス)』になくてはならない存在です。
  スーパーに売っている袋詰めのサラダではなく、土に埋まっている野菜の形を見て、その花の匂いをかいだり、葉っぱをちぎって味見したり、好奇心いっぱいに野菜とふれあう子供たち。いつも食べているサラダや野菜炒めがきっと明日からはもっとおいしく味わえるに違いありません

 

まずはピザの構成を紙にデザインするところから始まります。どんな野菜をのせたいか、紙と色ペンでピザをつくってみます。一生懸命お母さんの顔を描いている子供もいて笑ってしまいましたが、みんな自由に好き好きに自分の食べたいピザを描いています。なかなか鮮やかなピザができあがりました。

 

まずはピザの構成を紙にデザインするところから始まります。どんな野菜をのせたいか、紙と色ペンでピザをつくってみます。一生懸命お母さんの顔を描いている子供もいて笑ってしまいましたが、みんな自由に好き好きに自分の食べたいピザを描いています。なかなか鮮やかなピザができあがりました。

 

さて今度は紙ではなく、いよいよ本物のピザ作りに挑戦!あらかじめ主催者が準備していた生地を粘土細工のように丸く平たく伸ばしていきます。このときに「みんなが今こねている生地には何が入っているでしょうか?」とか「イーストとな何ですか?」などの質問を子供達に投げながら教えていきます。
粉だらけになりながらできあがった生地にオリーブオイルをたっぷりかけて、今度は一人ずつ釜に入れていきます。

 

このピザ釜も、なんとボランティアのおじさんたちが農園の粘土質の土を積み上げて作ったという手作りの釜。おかげで本格的なピザが焼けるのです。さっきまであれほど大騒ぎしていた子供達も、釜の中で自分がこねたピザが焼きあがるところはみんな無言で一生懸命観察していました。
焼きあがったアツアツの生地をそっと作業台まで持って行き、今度は自分のデザイン通り野菜をのせていきます。

 

その時にひとつひとつの野菜の名前を先生が教えてくれます。ここから自分でおいしいピザができるように野菜を選んで丸いピザの上に置いていくのです。

 

まるでピザ職人になったかのように得意になってどんどん野菜をのせる子供、慎重に全部の野菜を眺めて厳選する子供、やりかたはそれぞれあっても自分の満足のできるピザをつくれたようでみんなそれはそれはおいしそうに食べていました。

 

この様子をカメラやビデオに収める親たちのほうがはしゃいでいたのはどこの国も同じ。子供と一緒に畑に生えているハーブの香りを一緒に楽しむお父さんやアントニオさんの草むしりを無心に手伝う親子。

 

初夏の青空の下、子供たちだけでなく大人も無我夢中になって農園体験しているのが印象的でした。
次週のテーマは“もしも自分が木だったなら!”。森の中のいろいろな木を観察し、その中から自分に似ている木を見つけ木と対話するというもの。子供も大人も参加できます。ますます増え続ける参加者に「都会に住む現代人にとって『HORTUS URBIS(オルトゥス・ウルビス)』のワークショップは週末のテラピーのようなものなのかもしれません。こういう体験が子供たちの将来に、また大人の私達の普段の生活の中でもいかに大切かという認識を一人でも多くの人に持ってもらいたいと思っています。」と熱く語る主催者のルカさん。
次世代の子供たちへ、そして地域の人々へ。食と自然の大切さを頭だけでなくカラダで体感する『HORTUS URBIS(オルトゥス・ウルビス)』の活動。アッピウス帝が考案したローマの街道で今、また来世に続くプロジェクトが行われているのです。

 

データ
HORTUS URBIS(オルトゥス・ウルビス)
http://www.hortusurbis.it/

ヒサタニ ミカ(野菜紀行レポーター)

京都生まれ京都育ち。
ローマ在住16年。
来伊後、サントリーグループのワイン輸入商社のイタリア駐在員事務所マネージャーを経て、現在は輸入業者のコンサルタント、ワインと食のジャーナリスト、 雑誌の取材コーディネーターとしてイタリア全国に広がる生産者や食に携わるイヴェントを巡る。最近はイタリアでのワインコンクールの審査員も務め、またお 茶や懐石料理のセミナーをイタリアで開催、日本の食をイタリアに紹介する仕事も展開。料理専門媒体にイタリア情報を随筆中。

AISイタリアソムリエ協会正規コースソムリエ。
ラッツィオ州公認ソムリエ。

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「ヒサタニミカのイタリア食道楽」

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