グストイタリア野菜紀行

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Episodio6

スローガンは「ゼロkm」全国の広場で開催される青果直販マーケットが熱いブーム

2年ほど前からイタリア全国の広場で繰り広げられている農家による直販市場。年々悪化していると言われる不況の中、異例の好景気を見せているのがこの青果直販業界。イタリアはどの町でも地区ごとに必ず県や市が管理する青空市場が昔からありますが、それとは別に新たに進出しているのがこの青果市。

ローマ近郊に畑を持つ生産者のスタンド。マーケットは新鮮さもウリにしているので全て地元メーカーしか出展できずラッツィオ州から外の農家は参加できない。

一般の青空市場との違いは「ゼロKm」というスローガンに表されているように生産者が自ら作物を直販するという卸業者なしの販売形態。また定期市ではなく週末などスポット的に開催されるというところ。テレビや新聞などでこのPRが頻繁に取上げられたこともあり、昨年2010年には、20の州で705の新しい直販マーケットが立ち(前年比で28%増)8300万人のイタリア人が買い物をした、という驚異的なデータが記録されました。そのうち60%の直販市が北イタリア、22%が南、18%が中部イタリアで開催されています。

首都ローマでは、昨年から市内だけでも週末に限り4つの直販青果市が立つようになりました。イタリア農業生産者団体“コルディレッティ”による『カンパーニャ・アミーカ 』や『ファーマーズマーケット』、BIO青果生産者団体による『ビオマーケット』などがあり、どこにも共通しているのは“卸を通さず農家から一般消費者への直販”というコンセプト。実は一般の青空市やスーパーマーケットに比べ商品の価格が決して安いというわけではなく、むしろ中間業者を通していないにもかかわらず若干高額のものが多いのが事実。これには生産者がこのブームを悪用しているなど批判も多く出ているのですが、それでも買い物客が増える一方なのは、それほどまでに市民が“顔の見える生産者”と“商品の質”にこだわっているという証。ここ数年に起きた数々のトルコやアフリカ、中国からの不法輸入食材や産地偽装食材のスキャンダル。「安心して食べられることほど価値があるものはない。」という意識が、過去に前例がないほど全国の消費者の間で高まってきているようです。この波にのって農業者側の生産・販売意識というのも向上し、彼らの間で熱い戦いが繰り広げられています。

さっそく、晴天のある日曜日ローマ中心街の広場で開催されている『ビオマーケット』へ。今までは月に1回だったのが3月からは毎週日曜開催となるという人気の直販市です。

- 上写真左から -

日曜朝10時から夕暮れ時まで賑わう『ビオマーケット』。午前中で全ての商品が売り切れてしまうスタンドも少なくない。

子供向けの本屋さん。料理や食べ物に関する書籍を専門に、トラック販売しています。

野菜だけでなく、チーズやパン、ハチミツなど30軒の農家のスタンドが真冬の青空の下に広げられました。開始時間の朝10時を少し過ぎたころに行ったのですが、もうすでにたくさんの人が!われ先にと押し合いになっているスタンドあり、列をつくって自分の番がくるまで並んでいる人々のスタンドあり。どのスタンドも満員状態で「なるほど、これはブームと呼ぶに値する。」と唸らされる光景。

- 上写真左から -

人気の無農薬栽培の小麦から作られるパン屋さん。午前中に全て完売。

ラッツィオ州のオリーブオイルの名産地サビーナ村からきたオリーブオイルの生産者。

チーズやハムのスタンドでは、どこでどのようにその製品が作られたかなど熱心に語る生産者や、説明を聞いて試食をしながら購入する買い物客でまるで食品見本市のような賑わいぶり。平日は仕事で買い物をする時間がないのでここでまとめ買いをする若者や共働き夫婦など、リピート客も多く見られました。

- 上写真左から -

有機栽培のオレンジから作られるジャムの生産者。

イタリアの食卓に欠かせない豆類。

ハムやサラミの加工食品も人気スタンドの1つ。

ハチミツ屋さん。手作りラベルがかわいい。

イタリアでは週末は一般のマーケットやスーパーは閉まっているので、これもこの直販市の有利なところ。日曜日なので会場の広場には子供連れの家族も多いことから子供が遊べるキッズスペースまで設けられていました。子供をベビーシッターに預けて安心して買い物ができるのもこの市場の魅力の1つ。子供だけではありません。野外である広場なら犬などの動物も問題なし。

会場は買い物だけでなくいろいろな人との出会いの場。

ロバかと思うほどの大型犬からチワワまで、あらゆる犬がそこらじゅうを走り回っていました。めんどうな日常の買い出しが、このように文化イべントとなり、かつ出会いの場にもなれば、この直販市はちょっとした週末の過ごし方としてウケているのかもしれません。

この直販青果市、ただのブームとして終わるのか、それともこのまま地域に定着するのか。今後の展開に乞うご期待!

ヒサタニ ミカ(野菜紀行レポーター)

京都生まれ京都育ち。
ローマ在住16年。
来伊後、サントリーグループのワイン輸入商社のイタリア駐在員事務所マネージャーを経て、現在は輸入業者のコンサルタント、ワインと食のジャーナリスト、 雑誌の取材コーディネーターとしてイタリア全国に広がる生産者や食に携わるイヴェントを巡る。最近はイタリアでのワインコンクールの審査員も務め、またお 茶や懐石料理のセミナーをイタリアで開催、日本の食をイタリアに紹介する仕事も展開。料理専門媒体にイタリア情報を随筆中。

AISイタリアソムリエ協会正規コースソムリエ。
ラッツィオ州公認ソムリエ。

[ イタリアからお届けする旬の食コラム ]

「ヒサタニミカのイタリア食道楽」

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