グストイタリア野菜紀行

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Episodio7

野菜栽培から調理まで「レストラン シェ・パニース」のシェフによるアメリカ芸術財団『アメリカン・アカデミー』の食堂

ローマの高級住宅街ジャンニコロ区にある芸術財団『アメリカン・アカデミー』は全米から選ばれ奨学金を得たアーチストたちが住み込みで制作活動をし、作品を発表する場として設立された芸術センター。敷地内には彼らのアパートとアトリエを備えた2階建ての建物があり、その美しさは映画の撮影にも使われるほど。アカデミーはローマの街中にありながらアーチスト達がより自由に、そして集中して制作活動ができるよう、現実離れした閑静な空間を保っています。

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アメリカン・アカデミーの美しい正門と緑の芝生がまぶしい中庭。年間を通じていろいろなガーデンパーティも催される。

キッチンでニラとジャガイモのラビオリの下準備をする奨学生。「料理もアートと同じく、人々の心を喜ばせるものなの」。

さらに彼らが毎日の食事ができる食堂まで備えられ、ここではカリフォルニアのレストラン「シェ・パニース」出身のシェフ2人による素晴らしい料理が提供されているのです。

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食堂は建物の屋内にもあるが、春から秋までは外にもテーブルが出る。ランチは必ずブッフェスタイル。

ワンプレートに盛り付けたもの。どんなたくさん食べても胃にやさしい。

「シェ・パニース」とは“カリフォルニア・キュイジーヌ“の先駆者として、グルメなら知らない人はいないレストラン。1971年にオープンし、まだオーガニックという言葉さえ皆無であった時代に、全米全世界で話題となりました。生態学的に健全に育てられた食材、オーガニック食材のみを使った料理が高く評価され、現在でもそのレシピはあらゆるメディアで注目されています。このレストランをつくった女性シェフ、アリス・ウオータースさんは世界スローフード協会副会長でもあり、日本でも彼女のレシピ本が紹介されています。『アメリカン・アカデミー』のシェフ、モナ・タルボットさんはそのアリス・ウオータースさんの愛弟子の1人。2009年に発売された[COCO](ファイドン出版)で世界トップシェフ100人に選ばれた料理人です。

ラディッシュを手に取って思わず「かわいい!」と叫ぶモナさん。野菜1つ1つに愛情を持つ気持ちが伝わってくる。

モナさんがこのローマにあるアカデミーに来た4年前、彼女の手によって自家農園のプロジェクトも始まりました。アカデミーの敷地内の庭にある小さな農園では、野菜や果実をシェフとアーチストがチームを組み、毎日共同で畑仕事をしています。ここで採れた野菜たちは即座にキッチンで調理され、アーチストたちの食堂でふるまわれるのです。メニューは決してベジタリアン料理ではありません。肉や魚も使いますがあくまで野菜が主流の、シンプルでストレートな料理。素材のうまみが五感を通して伝わってくる迫力のあるメニューばかりで、どんなにたくさん食べても全く胃にもたれないのがまたうれしいのです。

モナ・タルボットさんとスーシェフのクリス・ボウウェルさんのインタヴューです。

春の訪れを喜ぶシェフモナさんとクリスさん。写真を撮ったあと、足元に野草や香草が生えているのを見つけて「これもおいしそう!」と無心に摘むモナさん。

- 畑ではどのような野菜を栽培しているのですか? -

季節ごとにそのシーズンの野菜を20種類ほどつくっています。特にもう今では一般の市場ではあまり売られていないような珍しい昔の野菜も育てています。また私達の自家農園の特徴は全ての野菜を小さく育てています。一般のイタリアの市場で販売されている野菜の大きさに比べると半分くらいの大きさのものがほとんどです。イタリアでは野菜を大きめに育て生産者が販売率を増やす傾向があります。私たちは大きくなる前に早く収穫することで小さな野菜を使用しています。

- なぜ野菜を小さく育てているのですか? -

理由は2つあります。ひとつは小さいままだと繊維や葉がやわらかくより口当たりがいいからです。もうひとつはお皿に盛った時に葉の形が大きいより小さい方がよりバランスがいいからです。

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アカデミーの自家農園を見回るモナさんとクリスさん。小さな面積にたくさんの作物が無農薬栽培で育てられている。

小さく育てられたラットゥーガ・ロマーナ。この大きさで収穫してしまう。「芯の部分がやわらかくておいしいんです。」とクリスさん。

ルーコラ・セルバーティカも小さく葉も丸い。「こんなに小さくてもしっかり苦みと辛みが凝縮されているのですよ。」

- メニュー作りのコンセプトとはどんなものでしょうか? -

アカデミーの食堂にはイタリア人、アメリカ人、北欧から韓国など世界中のいろいろな国の人が食事をします。ですので、どこかの国の料理に偏ったものではなく、全ての人の口に合うようにできるだけシンプルで誰もが食べやすい料理を心がけています。イタリアの郷土料理も取り入れますが100%そのままではなく、カリフォルニア料理とイタリア料理のいいところをとった料理と言えると思います。たとえば私達のメニューに欠かせないサラダについて話すと、材料の組み合わせはいわゆるイタリアの伝統的なものではなく創作的なものになりますが、アメリカのサラダようにドレッシングは使わず、必ずイタリア産の高品質のエクストラヴァージンオリーブオイルと塩・胡椒というシンプルな調味料だけであえます。

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ルーコラと洋梨のタルト。お菓子を作るサクサクしたパイ生地にジャガイモの薄切りをのせオーブンで焼き、ヴィネガーで軽くあえたルーコラをのせたもの。野菜の使い方、盛り付け方、味わいのハーモニー。シンプルな一品の中にもモナさんのセンスが感じられます。

パキーノトマトをくりぬきクリームチーズとバジルをつめたもの。フレッシュな味わいにニンニクの隠し味が絶妙で、白ワインにとてもあうのです。

ルーコラとリンゴのサラダ。すべての素材がシャキシャキ感、生き生き感を見事に発揮しています。

ラディッキオとフィノッキオ、イタリアンパセリのサラダ。シンプルな組み合わせもモナさんの手にかかるとなぜか豪華な一皿に。

- ではひとつ野菜料理のレシピを教えていただいていいですか? -

もちろん!ルーコラと地鶏のサラダです。

レシピはこちら>>

モナさんは昨年12月にビスケットのレシピ本を出版。これに続き近々スープの本を出版する予定。もちろん主役は野菜だそう。野菜の魔法使いモナさんがどんな料理を提案してくれるのか楽しみです。

右奥にある小さな小屋のような建物は昔ここを通った旅人が休息する宿だった。1600年代には天文学の父ガリレオが立ち寄り、初めて望遠鏡で星を観察した場所でもある。

ヒサタニ ミカ(野菜紀行レポーター)

京都生まれ京都育ち。
ローマ在住16年。
来伊後、サントリーグループのワイン輸入商社のイタリア駐在員事務所マネージャーを経て、現在は輸入業者のコンサルタント、ワインと食のジャーナリスト、 雑誌の取材コーディネーターとしてイタリア全国に広がる生産者や食に携わるイヴェントを巡る。最近はイタリアでのワインコンクールの審査員も務め、またお 茶や懐石料理のセミナーをイタリアで開催、日本の食をイタリアに紹介する仕事も展開。料理専門媒体にイタリア情報を随筆中。

AISイタリアソムリエ協会正規コースソムリエ。
ラッツィオ州公認ソムリエ。

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「ヒサタニミカのイタリア食道楽」

[ データ ]

- ローマ アメリカン・アカデミー -

Via Angelo Masina 5

00153 Roma ITALIA

http://www.aarome.org/

- レストラン シェ・パニース -

Chez Panisse Restaurant and Café

1517 Shattuck Avenue

Berkeley, CA 94709-1516 USA

http://www.chezpanisse.com/intro.php

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