グストイタリア野菜紀行

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episodio26

手打ちパスタ専門店『マウロ・セコンディ』 世界唯一の野菜のラヴィオリたち

 

冬になるとイタリア人の週末の過ごしかたはめっきり変わる。さんざん海水浴に出かけた夏とはうってかわって、もっぱら家でワイワイ過ごすのがこの時期。週末だけでなく誕生日や記念日、とにかく何かあるごとに家族や友人同士で集まって、みんなでおいしいものを食べることが大好きなイタリア人。日本ではパスタというとスパゲティやリングイネなど長い乾麺を好む人が多いけれど、イタリアではハレの日のパスタというと卵入りの生地で作られるラヴィオリやラザニアなのである。長麺であればこれも卵入りの手打ちのタリアテッレというところであろう。たとえば誰かの家でのフォーマルな食事によばれた場合、乾麺のスパゲティが出てくることはあまりない。冬の時期、人の集まる食卓でよくお目見えする料理がラヴィオリ。中にいろいろな具をつめ生地で包んだ餃子のようなパスタである。夏にはちょっと重たいけれど、ちょうど秋口から冬にかけて登場するおもてなし料理だ。さてこのラヴィオリ、具は肉であったり、野菜であったり、きのこであったり、餃子と同じくそのバリエーションに限りはない。ラヴィオリは数分間茹で、具によってトマトソースやオリーブオイル、バターを絡めて仕上げる。
ローマ郊外にあるスローフード協会やガンベロロッソガイドで表彰されている生パスタの専門店『マウロ・セコンディ』

 

ここではタリアテッレからラザニアの生地、具入りのラヴィオリまでざっと150種類の手打ちパスタを生産している。小さな工房で朝5時からつくられるパスタは完全注文制で客先のレストランやワインバー、厳選食材店に配達される。マウロ氏が自ら製品紹介をする『マウロ・セコンディ』のパスタディナーや試食会などのイベントも 常に大盛況の人気ぶりだ。そもそもスーパーなどでもラヴィオリはパック入りなどで販売されているが、こちらはまったくそれとは似て非なるもの。

 

『マウロ・セコンディ』のパスタには保存剤や香料など添加物が一切入っていない。なによりラヴィオリに使われるすべての素材へのこだわりがすごい。生地に使う卵は、味わいに深みを出すため3つの違う農家の卵を練りこんでいる。セモリナ粉も同じく何種類かを混ぜ合わせ複雑味をもたせているという。いろいろな材料からできた具を包む薄皮のパスタはしなやかでかつ破れにくくなければならないためよく練り上げる。

 

ほうれん草とリコッタチーズのラヴィオリと、レモンとリコッタチーズのラヴィオリを作るマウロ氏。「ひとつ食べてみな。」と生のまま差し出してくれる。一口かじってみると、さわやかなレモンのクリームが口いっぱいに広がった。具を包むパスタの皮ももちっとしていてそのままお菓子としていけるくらいおいしい。
ラヴィオリの種類だけでも40種類もあるが、その中でも人気は野菜農家と一緒に考案したという『ゼロkmラヴィオリシリーズ』。“エピソード6”で取り上げた中間業者を通さずに農家が作物を直販する『ゼロkm』を提唱する農家といっしょにメニュー開発をしたもの。たとえばチーマ・ディ・ラーパの名産地アングイラーラ地方の農家とコラボレーションで生まれたチーマ・ディ・ラーパのラヴィオリや、ヴィテルボ名産インゲン豆やレンズ豆のラヴィオリなど、素材の生産者名も連名で販売している。これらの野菜を使った具は定番のラヴィオリのようにリコッタチーズと野菜を混ぜ合わせるのではなく、その野菜をオリーブオイルと塩コショウで茹でたり炒めたりしたものだけを包んだチーズの入らないラヴィオリ。素材のおいしさそのものを味わうというコンセプト。仕上げはもちろんトマトソースのように濃いソースではなく、さっぱりとオリーブオイルをたらすだけ。野菜のおいしさがしみじみ味わえるパスタ料理だ。

 

肉を使った具材によってはたっぷり香草を入れるものもあり、セージやマジョラム、タイム、ドラゴンチェッロなど自分の自家菜園で大切に育てているものもある。
「僕のラヴィオリにはトマトソースやクリーム系などボリュームのあるソースは必要ありません。質のいいエクストラバージンオイルや良質のバターだけ、というようにできるだけラヴィオリそのものを味わってほしいのです。たとえばリコッタチーズとラットゥーガ・ロマーナのラヴィオリやフレッシュトマトとルーコラ・セルバーティカのラヴィオリなどはサラダのような感覚で味わってほしいのです。」

 

最近はオリーブオイルのラヴィオリ、つまり液状の素材を詰め物の具にしたものや、カルボナーラやアーリオ・オーリオ・ペペロンチーノのラヴィオリなど、本来ならソースとしてパスタに絡めるものを具にして生地で包んでしまうというオリジナル性あふれるメニューも考案。これはまさにイタリアの小籠包!茹でたての熱々をフーフー言いながら食べてみたい。イチジクや洋ナシなど、果実をラヴィオリの具にし、それを茹でるのではなくフライにしたストリートフード風メニューや、“スップリ”という伝統的なライスコロッケの米の代わりにパスタを使ったものまである。

 

ラヴィオリという伝統パスタ料理を誰も見たことのない新しい料理に変化させ、世界唯一のメニューを提案するのが楽しいというマウロ氏。これからもいろいろな食材生産者とコラボレーションをしていきたいそう。ラヴィオリの中にはマウロ氏の夢がいっぱい詰まっているのである。

 

ショップデータ
PASTIFICIO SECONDI パスティフィーチョ・セコンディ
Via delle Alzavole 47/49 00169 Roma
Tel 06 2388319
www.pastificiosecondi.it

ヒサタニ ミカ(野菜紀行レポーター)

京都生まれ京都育ち。
ローマ在住16年。
来伊後、サントリーグループのワイン輸入商社のイタリア駐在員事務所マネージャーを経て、現在は輸入業者のコンサルタント、ワインと食のジャーナリスト、 雑誌の取材コーディネーターとしてイタリア全国に広がる生産者や食に携わるイヴェントを巡る。最近はイタリアでのワインコンクールの審査員も務め、またお 茶や懐石料理のセミナーをイタリアで開催、日本の食をイタリアに紹介する仕事も展開。料理専門媒体にイタリア情報を随筆中。

AISイタリアソムリエ協会正規コースソムリエ。
ラッツィオ州公認ソムリエ。

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「ヒサタニミカのイタリア食道楽」

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