グストイタリア野菜紀行

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episodio27

ローマ ファーマーズマーケット直販市 冬野菜レポート

 

ラッツィオ州はローマ周辺にある農家が集まってできた食材直販市「ファーマーズマーケット」。ローマ市が運営するこの青空市は『Km0=地産地消』のブームと共に数年前に開設されました。1800㎡の敷地に、八百屋、チーズ、ハムサラミ、パスタ、パン、精肉、オリーブオイルのブースがずらりと並んでいて、マーケットの外まで八百屋さんのおじさんの大きなかけ声が響いてきます。

 

クリスマスにニューイヤーディナーと続き、大量の食料の買い出しをするローマっ子でごったがえしている「ファーマーズマーケット」に冬野菜のレポートに行ってきました。

 

一般の青空市と違うのは圧倒的に旬のものが多いこと。たとえば野菜であれば、ナスやズッキーネなどの定番野菜をあまりみないほど時期限定の季節野菜がほとんどです。ここに一歩足をふみいれると今何が旬なのかが一目瞭然。食材はもちろんすべて量り売り。農家のおじさんが山積みになっている野菜をわしづかみにして袋に入れてくれます。その後量りにのせて重さで価格がきまります。スーパーマーケットのようにすでに袋入りになっているものはここには存在しないのです。

 

秋冬ならではの栗とくるみ。イタリアは[マローネ]と[カスターニャ]というおいしい栗が2種類存在します。家庭では焼き栗にしたり、砂糖で甘く煮たりして食べます。街角のあちこちでみかける焼き栗売りはこの時期の風物詩です。

 

バラ売りの卵。BIOのものと、地鶏の卵がありました。

 

鏡餅みたいな羊のミルクのチーズ。チーズもローマ周辺の農家の手造りのものばかり。

 

黒豚の農家。黒豚はトスカーナの[チンタ・セネーゼ]という品種が有名ですが、ラッツィオ州の黒豚は[アプロ・カラブレーゼ]という品種でこの農家では放し飼いにしているそう。ショーケースにはまだ毛がついている肉が並んでました。

 

行列のできている手打ちパスタとパンの専門店からは小麦粉の香ばしい匂いが。この食欲をそそる香りにつられて予定外にパンを大量に買ってしまいました。

 

ミスティカンツァ。畑で栽培した菜野菜でなく、野原で摘まれた雑草のミックス。ボッラージネやチコリ、ピンピネッラなど。毛が生えた固そうな葉っぱや、まだ根っこに泥がついたものなどいかにも栄養がありそうなかんじ。

 

セロリに似た形の野菜はカルド。生ではなく、必ず調理してから食べる野菜。味はごぼうやアーティチョークに似ていて、繊維質が多くほっくりした食感。茎の部分を食べるのですが、肉厚なのでザクきりに刻んでミネストローネ(野菜を煮込んだスープ)にいれたり、茹でてレモンとオリーブオイルであえたり、にんにくと炒めたりして食べます。ベシャメルソースやモッツァレラチーズをのせてオーブン焼きにしたものも食べごたえのある野菜です。

 

チンゲンサイの親戚みたいなのはビエータ。赤い葉のビエータ・ロッサや細長い葉のビエトリーネとバリエーション豊か。肉厚で比較的デリケートな味わいで外見だけでなくチンゲンサイを思い起こさせる風味があります。

 

葉っぱがピンピンしたチコリもおいしそう。チコリは味わいは日本の菜っ葉のようで苦さがあります。冬になるとなぜかのこの苦い野菜が多くなりますが、こういうクセのある食材が大好きです。茹でたものをオリーブオイルとにんにくで炒めるのが定番のレシピ。

 

ちりめん状の葉っぱが見事なカーボロネーロも冬野菜の人気者。他の野菜よりもビタミンとミネラルを多く含んでいます。もともとはトスカーナ地方名産の野菜で、トスカーナの郷土料理『リッボリータ』(野菜のスープ)には必ず入っています。また炒めてパスタやリゾットに入れたり、こちらもほろ苦味がありかなりアクセントになる野菜。

 

おなじみカーボルフィオーレ。ずっしり重たい大理石みたいなこの野菜、絵の具で塗ったみたいにきれいな黄緑。茹でると甘みが増しておいしいのです。ビタミンを多く含むので風邪などを引きやすいこの季節にはたくさん食べたい野菜。

 

そしてかぼちゃ。日本の栗カボチャよりも水っぽいですがポタージュにしたり、リゾットの具としてもよく食べます。プラスチックのおもちゃみたいにかわいい形。

 

そして冬に必ず市場に出るのがミネストローネのコーナー。いろいろな野菜を切り刻んで量り売りをしているのですが、これは煮込みのスープにします。中にはキャベツやビエータなどの葉野菜、にんじんにセロリ、カーボルフィーオーレなんかが入っています。八百屋さんでも余った野菜を処理できるのでいい方法ですね。みんな大量に買っていくので杓子のサイズも大!ミネストローネは家庭でも余った野菜を全部切り刻んで冷蔵庫のそうじができる便利なメニューで、私は実は一年中作ります。豆や小粒のパスタを入れたりいろんなアレンジができます。

市場から帰っていく人たちを見るとみんな大きな袋を両手にもちきれないほど抱えています。イタリアに来たころは「みんなこんなに野菜を買ってどんな大家族なんだろう?」といつも首をかしげていましたが、その後イタリア人の野菜の食べ方を知って納得。葉野菜などはクタクタに茹でるので、あれほどかさばっていた野菜が調理後はかなり少量になるのです。こちらの茹で方は日本人からするとほとんど“煮る”に近い調理法。イタリア人の姑さんをもつある日本人の友だちが「彼女があまりにも長く茹でているので、とうとうボケだした!と思った。」という話にはふき出してしまいましたが、うなずくものがありました。

 

こうして新鮮な野菜を毎日ふんだんに食べる生活をしていると、クセのある野菜がほんとうにおいしいと思うようになりました。食べ物に対してよく「クセがなくて食べやすい。」「クセがなくておいしい。」という言い方がありますが「じゃ、買うのやめよー。」と思ってしまうほど私にとって“クセ”は美点でありなくてはならないものです。
ある時期「これだけ野菜の種類の多いイタリアで、意外と野菜料理のバリエーションが少ないのはなぜか?」と疑問に思っていたのですが、自分なりに出た答えは「野菜自体にクセがあるから。」です。代表的な野菜定番料理といえば2つあります。クタクタになるまで長時間茹でたものをオリーブオイルと塩、レモンであえる「LESSA レッサ」と、茹でたものをさらにオリーブオイルとニンニク、塩、トウガラシなどで炒める「RIPASSATA リパッサータ」。チーマ・ディ・ラーパやチコリ、ほうれん草などの菜野菜でもそう、カーボルフィオーレやカルド、ズッキーネなどの固い野菜でもそうで、家庭でもトラットリアでもどんな野菜にもたいてい同じレシピが使われているのです。また調味料もいたって単純。調味料やソースでいろいろ味を加える必要がないのです。野菜自体に苦味や甘みのクセがしっかりあるので、このようなシンプルな調理法が一番野菜がおいしく食べられるからだと思います。同じヨーロッパでもドイツや北欧から来た友人たちは、口をそろえて「イタリアで野菜のおいしさに目覚めた。」と言います。彼らの国では野菜といえばジャガイモとタマネギだけで緑の菜野菜はほとんど輸入もの。1年を通して野菜がふんだんにある食生活ができるというのはほんとうにシアワセ!

 

そんなことを考えながらマーケットを出ると出口のところにおもちゃの並んだ白いテントがありました。「ファーマーズマーケット」では、ローマの孤児院で暮らす子供たちのためにおもちゃの寄付を募っているのでした。そういえばうちにも友だちの子供にあげそこねた日本の折り紙があったっけ。またひとつこのマーケットに来る理由ができてこれからもここに通うことになりそうです。

ショップデータ
Roma Farmer’s Market
ローマ・ファーマーズ・マーケット
住所:ex mattatoio-Testaccio padiglione 9C
Largo Giovanni Battista Marzi Roma

ヒサタニ ミカ(野菜紀行レポーター)

京都生まれ京都育ち。
ローマ在住16年。
来伊後、サントリーグループのワイン輸入商社のイタリア駐在員事務所マネージャーを経て、現在は輸入業者のコンサルタント、ワインと食のジャーナリスト、 雑誌の取材コーディネーターとしてイタリア全国に広がる生産者や食に携わるイヴェントを巡る。最近はイタリアでのワインコンクールの審査員も務め、またお 茶や懐石料理のセミナーをイタリアで開催、日本の食をイタリアに紹介する仕事も展開。料理専門媒体にイタリア情報を随筆中。

AISイタリアソムリエ協会正規コースソムリエ。
ラッツィオ州公認ソムリエ。

[ イタリアからお届けする旬の食コラム ]

「ヒサタニミカのイタリア食道楽」

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