グストイタリア野菜紀行

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episodio49

過去には魚や肉の変わりに代用されていたナス 今はシマウマ柄が人気

イタリア中どこの市場でもスーパーでも見かける野菜、ナス(イタリア語:メランザーネ)。パスタの具になったり、輪切りにしてグリルにしたり、油と相性のよいこの野菜はイタリアでもいろいろな料理に登場します。ナスは万能すぎてなんだかありふれた野菜に思われますが、全国にあらゆる品種が存在し、また歴史深い郷土料理の数々が未だに引き継がれています。

イタリアには、アラブの商人を通して13世紀ごろに入ってきたといわれています。生で食べるとぜんぜんおいしくないナスは、なんと当時“不出来のリンゴ”という名がついていたそう。その後かなり経って1700年代になってから一般の市民に広がったという、最初から評判のよい野菜ではなかったというクラーイ過去があったのです。そんなナスですが現在はイタリア各地で生産されており、南イタリアのシチリアが最も多い栽培量を占めています。まずはいくつかここでイタリアの代表的なナスの品種をご紹介しましょう。

ゼブリーナ・ヴィオラ
紫のシマウマ柄という名の通り縞々のナスです。モダンアートのオブジェのように美しい形と色。見た目の面白さとそのおいしさでこの近年人気が上昇し生産量が増加。

ヴィオレッタ・パレルミターナ
ころりと真ん丸い形で、実はやわらかくしっかりした味わい。

トンダ・ヴィオレッタ・ベッラ・ヴィットリア
ちょっと加茂なすに似ていますが、かなりよく見かける品種です。この形のものは輪切りにしてグリルによく使われます。

メランザーナ・ビアンカ
真っ白のナス。小さなサイズのものは“ペルラ=真珠”と名つけられています。
色のわりにしっかりした固めの皮。

メランザーナ・メッザルンガ
これも市場でよく見かけるタイプ。フライ料理に向いています。

*各地で名前が変わるので上記は品種の正式名ではありません。

その名産地シチリアにはナスを使った有名な郷土料理があります。誰もがすぐに思い浮かべるのが“カポナータ”。ギリシャ、アラブ、スペインなど、あらゆる国の占領下に置かれた歴史を持つこの地では、イタリアの他都市では味わうことのできない独特の味付けをします。カポナータもその一つ。フライにしたナスと、オリーブの実の塩漬け、タマネギ、セロリ、ケイパー、トマトソース、松の実、バジリコをたーっぷりのオリーブオイルで揚げ炒めのようにします。ここまでは普通の野菜炒めと変わらないのですが、カポナータにはここに砂糖とビネガーを入れます。まさに八宝菜のような甘酸っぱい味わいなのです。シチリアのトラットリアにも必ずある定番料理で、家庭でも年中食卓にあがる一品。これを大量に作って、余れば翌日にパスタのソースにしたり、パンに挟んでカポナータのパニーノにしたりします。昔シチリアが貧困に苦しみ魚も肉も手に入らなかったころ、ナスを魚や肉に見立てて食べられていたという由来もあります。昔から市民の生活に深く根付いたカポナータは “PAT=Prodotti Agroalimentari Tradizionali Italiani”というイタリア農林省が認定している伝統食材や郷土料理に与えられる称号を持つイタリアを代表する名物料理の一つです。

シチリア本土でもパレルモ県ではトマトソースを入れ、南のアグリジェントではシシトウを入れるのが伝統、ビヴォーナ村では名産である桃や洋梨を入れる、北のメッシーナではトマトソースではなく生のトマトをいためる、などなど地域ごとに微妙にレシピが異なります。日本のお正月のお雑煮と同じですね。

ではレシピをご紹介します。

【カポナータ】

材料: 2人分
ナス 400g
熟したトマト 150g
セロリ 適量
タマネギ 半個
バジリコ 適量
塩漬けもしくはオイル漬けグリーンオリーブの実  50g
ケイパー  10g
松の実 小さじ1

ビネガー 100ml
砂糖  大さじ1/2
オリーブオイル 適量
塩・コショウ  適量

作り方: 

1.ナスはキューブ型に切り、塩水に漬けてアクを抜く。
2.トマト、セロリ、タマネギを小口に切る。
3.フライパンで熱したたっぷりのオリーブオイルでナスとその他の野菜を炒める。
4.ビネガーと砂糖、塩コショウを入れ、20分ほどいためながら煮詰める。
5.ケイパー、松の実、バジリコを加える。
*好みで干しブドウやニンニクを入れても。

作りたてのアツアツではなく、必ず冷えてから食べます。この方が断然おいしいんです。翌日ももっとおいしくなっているくらいなので、お弁当のおかずにも最適です。簡単に日本でも手に入る食材でできるので、ぜひお試しアレ!

ヒサタニ ミカ(野菜紀行レポーター)

京都生まれ京都育ち。
ローマ在住16年。
来伊後、サントリーグループのワイン輸入商社のイタリア駐在員事務所マネージャーを経て、現在は輸入業者のコンサルタント、ワインと食のジャーナリスト、 雑誌の取材コーディネーターとしてイタリア全国に広がる生産者や食に携わるイヴェントを巡る。最近はイタリアでのワインコンクールの審査員も務め、またお 茶や懐石料理のセミナーをイタリアで開催、日本の食をイタリアに紹介する仕事も展開。料理専門媒体にイタリア情報を随筆中。

AISイタリアソムリエ協会正規コースソムリエ。
ラッツィオ州公認ソムリエ。

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