Episodio4
家族愛に生き、ご馳走が大好きで90%以上がカトリック教徒。そんなイタリア人が1年で一番幸せに浸れるお祭りクリスマス。
クリスマスの1ヶ月前にはキリスト教総本山であるバチカン市国サンピエトロ寺院の広場に色とりどりのライトで輝くクリスマスツリーが飾られ、子供から大人まで見る人全員の心をキラキラと明るく照らします。今年はアルトアディジェ州の森から天にも届きそうな26メートルの高さのモミの木がローマ法王に贈呈されました。
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クリスマスツリーの横には必ず“プレセピオ”というキリスト誕生シーンが飾られます。
バチカンのプレセピオは人間の等身大で通常の模型よりかなり大きい。
バチカンに届いた5トンの重さのツリーには1500個のものライトが点灯。1月6日の公現祭まで飾られます。
ローマ市内のど真ん中、ナボーナ広場にも毎年恒例のクリスマス市がたち、お菓子の屋台からプレセーピオ(キリスト誕生シーンの模型)のパーツ屋、おもちゃ屋、メリーゴーランドと広場全体が魔法にかかったようにきらびやかな光を放ちます。プレゼントの包みをを持ちきれないほど両手に抱える人々、サンタの格好をさせられたワンちゃん、ラジオから流れるクリスマスソングに合わせて踊るおじいさん。イタリア人にとって、どんなに時代が変わろうとクリスマスシーズンは大人から子供まで毎日がハレの日なのです。
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ナボーナ広場のクリスマス市。世界中からやってくる大道芸人の芸を見るのもこの市ならではの醍醐味。広場は劇場のような賑やかさ。
子供達だけでなくたくさんのカップルのデートコースでもあるクリスマス市。
クリスマスのクライマックスはなんといっても家族で囲む豪華な食卓。イブの12月24日はディナー、イエス・キリスト誕生の25日にはランチと2日間にわたって家族全員でご馳走を食べ祝います。
このクリスマスメニュー、日本全国でお正月に食べられるお雑煮が地方ごとに変わるのと同じように、各州でその地域ごとに昔から伝わる伝統料理があるのです。同じクリスマスに食べられる料理でも、州をまたぐと全く別の料理が存在します。
これはイタリア各地の気候や土地条件がそれほどに多様であり、採れる郷土食材が異なることによるもので、この国ならではの食の豊かさを物語っています。
いくつか各地に伝わる典型的なクリスマスメニューを見てみましょう。
まずは北東から、ヴェネト州。ヴェネツィアのある州です。
ラディッキオ・ロッソのリゾット、もしくはタラを煮込んだトマトソース添えポレンタ、牛肉のボッリート(茹で肉)。
フランスとの国境にあたる最北西の州、ピエモンテ州。
アンニョロッティ(数種類の肉のペーストを詰めた小さなラビオリ)、雄鶏のオーブン焼、ぺペローネのバーニャカウダソース。
最南部シチリア州。
イワシのパスタ、イワシのオーブン焼オレンジと松の実フェンネル風味、オレンジとニシン、タマネギのサラダ。
イタリア最大の島サルデニア。
サルシッチャ(ソーセージ)、オリーブの実の塩漬け、ペコリーノチーズ。ペコリーノチーズとビエートラ、サフランのラビオリ、子豚の丸焼き、フィノッキオとセロリのサラダ。
そして首都ローマのある中部イタリア、ラッツィオ州。
野菜のフライ、カペレッティ(肉のぺーストを詰めた小さなラビオリ)のスープ仕立て、子羊のオーブン焼。
どうです、このメニューを見ただけで、その地方の気候や地理が想像できるようではありませんか。
クリスマス当日、ローマの友人で画家のリッカルド・ピッターリさん宅を訪ねました。リッカルドさんは娘2人の4人家族。奥さんよりも料理好きで毎日の食事は彼が作るそう。
そんな彼の台所で、伝統的なクリスマスメニュー「ローマ風ベジタブルフライ」を習いました。シンプルな料理ですが、おいしく仕上げるいくつかのコツも教えてくれました。
- ローマ風ベジタブルフライ -
材料(4人分)
カーヴォルフィオーレ 1/2個
アーティチョーク 5個
ズッキーネ 2本
衣
小麦粉 200g
ビール 500ml
オリーブオイル 大さじ2杯
揚油 適量
塩 適量
レモン 適量
作りかた:
- 野菜を一口大の大きさに切ります。
- カーヴォルフィオーレとアーティチョークを10分ほど下茹でします。ここであまりやわらかく茹ですぎないようにします。その後冷まします。
- 衣を作ります。まずボールに充分冷やしたビールを入れ、そこへ少しずつ薄力粉を加えていきます。一気に入れるとダマになるので少しづつふるいにかけながら混ぜていきます。指につけてみて、ぽってり固まるのではなく薄い白いベールがかかったようなサラサラした固さを目安にします。これが香ばしく揚げるコツ。最後に塩とオリーブオイルを混ぜます。
- 衣をつけて180℃に熱した油でフライにします。“黄金色のフライ”という名の通り、衣がこんがり金色になるまで揚げます。
- 塩とレモンをかけてできあがり。
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ローマ風ベジタブルフライ用にカットし、下茹でしたカーボルフィオーレとアーティチョーク。
ズッキーネも薄切りの一口大にカットします。
衣の固さは指をつけて薄いベールがかかったようになるくらいで充分。
カーヴォルフィオーレをまとめて衣に浸します。
中火でどんどん野菜を揚げていきます。
家庭によっては卵を入れてボリューム感のある衣にするところもあるけれど、うちのフライは軽い衣でテンプラ風。」と揚げたてのアツアツのフライを味見させてくれました。
サクッっとした食感のあとジュワっとジューシーな野菜のうまみが口にいっぱいに広がります。フライにすることでこれほど野菜の甘さが引き立つのですね。まろやかな甘みのあるカーヴォルフィオーレ、後味に苦味のあるアーティチョーク、ジューシーなズッキーネとそれぞれのうまみをサクサクと香ばしい衣が包んで、これはクセになりそうなおいしさ!焦げたものもこれはこれでまたおいしい!お酒はスプマンテなどの発泡酒がよく合います。この料理がまだ前菜であり、ディナーの始まりということを忘れてしまいそう。
今でこそ年中おいしいものが手に入りますが、昔は12月という時期は農民たちが1年働いてきて、秋の収穫を終え、ちょうど一番食が豊かなシーズンでもありました。クリスマスはキリストの誕生を祝うだけなく、神が与えてくれた大地の恵みに感謝するというその習慣は未だに残っているのです。
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冬になると市場を占領する野菜カーヴォルフィオーレ。イタリアではこの時期に食べない家庭はないほどポピュラーな野菜。
朝は山盛りにされているズッキーネも正午くらいには全て売り切れる人気野菜。油と相性がよくフライや炒め物、パスタの具によく使われます。
そんなクリスマスが終わり、迎える新年。宗教的なお祭りのクリスマスとは異なって、友達同士でドンちゃん騒ぎで迎えます。
そして新年1日に食べる料理は「レンズ豆とコテキーノ(豚の足)の煮込み」。
これはレンズ豆がコイン・お金の形に似ていることから、たくさん食べて新年こそ福が来ますように!という願いから。こればっかりはどこの国でも同じなんですねー。
BUON ANNO 2011!
ヒサタニ ミカ(野菜紀行レポーター)
京都生まれ京都育ち。
ローマ在住16年。
来伊後、サントリーグループのワイン輸入商社のイタリア駐在員事務所マネージャーを経て、現在は輸入業者のコンサルタント、ワインと食のジャーナリスト、 雑誌の取材コーディネーターとしてイタリア全国に広がる生産者や食に携わるイヴェントを巡る。最近はイタリアでのワインコンクールの審査員も務め、またお 茶や懐石料理のセミナーをイタリアで開催、日本の食をイタリアに紹介する仕事も展開。料理専門媒体にイタリア情報を随筆中。
AISイタリアソムリエ協会正規コースソムリエ。
ラッツィオ州公認ソムリエ。
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