episodio38
冬のイタリアの市場には驚くほどありとあらゆる形のカボチャ(ズッカ)が見られます。
縦長のものは古代ローマ時代から存在していたという水っぽい果肉のもの。オレンジや黄色、黄緑色でひょうたんのような形をしています。古代では貧しい階級の人の食べ物だったとか。もうひとつは日本のカボチャのように丸い形で、原産地が中央アメリカから南アメリカのもの。新大陸からそれがヨーロッパに入ってきたのは1500年ごろのこと。その後スペイン人やポルトガル人によってイタリアに持ち込まれたカボチャは16世紀以降になってから栽培が盛んに行なわれるようになりました。最初はその奇妙な形からあまり広まらなかったものの、だんだんとそのおいしさに一般的に食されるようになったというエピソードがあります。
カボチャの名産地ピエモンテ州のピオッツォでは毎年10月に収穫祭が行なわれ、町の広場がぎっしりと450種類もの世界のカボチャでうまります。北イタリアの郷土料理の主役野菜であるカボチャは、パスタやリゾットの具になったり、裏ごしてポタージュスープに、またタルトやプディングのおいしいドルチェに変身して、秋から冬にかけての食卓を鮮やかに飾ります。
ローマのバルベリーニ広場近くにあるエミリア・ロマーニャ料理の老舗『コッリーネ・エミリアーネ』。ラティーニファミリーが経営するこのレストランでは、毎朝7時から自慢料理の<カボチャのトルテッリ>作りが始まります。 “トルテッリ”とはちょうど餃子のように薄皮の中に具を包みこんだパスタ料理。特に北イタリアでよく食べられるメニューで、具はいろいろバリエーションがありますが、ボローニャやパルマの町で知られるエミリア・ロマーニャ州ではカボチャを使います。
ここ『コッリーネ・エミリアーネ』ではカボチャはラッツィオ産のものではなく、わざわざエミリア・ロマーニャ州マントヴァの農家からマントヴァーナという品種を取り寄せています。ラッツィオ産のものは、果肉が水っぽくトルテッリの生地に包んだときにしっかり固まらないのと、甘みが少ないからだそう。
マントヴァの農家からカボチャが届くと、お店の中で一番風通しがよく、涼しい入り口の扉の上に並べられ、1ヶ月ほど保存されます。収獲してすぐに納品されてきたカボチャは、ここで少し休ませ追熟することによってでんぷんが糖に変わり甘みが増します。ちょうど甘くなったところでトルテッリの中に詰める具にするわけです。
手打ちパスタを早朝から毎朝うっていると聞き、8時にお店に伺いました。
店の奥から麺棒の音が聞こえてきたかと思うと、オーナーの娘のアンナさんがせっせとパスタをうっていました。大理石のテーブルにとうもろこしの粉をひき、どんどん生地を薄く薄く広げていきます。機械で伸ばされたパスタは表面がツルツルになりますが、手打ちで伸ばしたものはざらざらとして、よりソースが絡みやすくなります。ここからもう味の差がでるわけなんですね。
紙のように薄くなったパスタを四角く切り、今度は具をたっぷりと詰めていきます。アンナさんはもう何十年とやっている作業なのでその手さばきの早いこと!
93歳のオーナーと、長女パオラさん夫妻と息子のルカさん、次女のアンナさんがテーブルを囲み、3世代で行なうトルテッリ作り。今どきイタリアでもよほどの田舎に行かない限り、ほとんど見られなくなった珍しい光景です。
トルテッリの具には、皮を剥いたカボチャをオーブンでホクホクに焼いてから裏ごししたもの、すりおろしたパルミッジャーノチーズ、ナツメグ、すりおろしたレモンの皮、アマレットのリキュール、リンゴのムスタルダ(フルーツを辛子と砂糖で煮詰めたもの)が入っています。
これをセモリナ粉と卵だけを原料としたパスタの皮で包んでいきます。
餃子のように具を詰めてから皮を三角に折り、端をくるっとくっつけてできあがり。これほど薄いパスタ皮なのに破れないのはさすがです。こうして完成したトルテッリは5分ほどさっと茹でただけでお皿に盛り、上からバターとパルミッジャーノチーズを絡めていただきます。
ねっとりとしたカボチャのペーストが入ったこのパスタ、カボチャの甘さとレモンのフレッシュな風味、ソースのパルミッジャーノとバターの風味が溶け合って、なんというハーモニー!パスタ料理というよりお菓子のよう。もっちりとしてかなり食べ応えあり。ワインはなんといっても地元産のランブルスコ。赤ワインの発泡酒でバターやパルミジャーノの脂っこさを洗い流し、カボチャのペーストともまろやかに絡みあいます。
それにしてもダイエットとは無縁のイタリアの冬。自分のおなかがカボチャのように見えてきました。
データ:
コッリーネ・エミリアーネ
Colline Emiliane
Via degli Avignonesi 22
Roma
Tel +39 064817538
日曜夜・月曜定休
ヒサタニ ミカ(野菜紀行レポーター)
京都生まれ京都育ち。
ローマ在住16年。
来伊後、サントリーグループのワイン輸入商社のイタリア駐在員事務所マネージャーを経て、現在は輸入業者のコンサルタント、ワインと食のジャーナリスト、 雑誌の取材コーディネーターとしてイタリア全国に広がる生産者や食に携わるイヴェントを巡る。最近はイタリアでのワインコンクールの審査員も務め、またお 茶や懐石料理のセミナーをイタリアで開催、日本の食をイタリアに紹介する仕事も展開。料理専門媒体にイタリア情報を随筆中。
AISイタリアソムリエ協会正規コースソムリエ。
ラッツィオ州公認ソムリエ。
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