グストイタリア野菜紀行

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Episodio2

イタリア全土にブーム広がる“秘密のレストラン”とは?郷土料理を来世に伝える『HOME FOOD協会』。

[ニューヨークタイムズ]に記事が掲載され、今年の1月には日本のTV番組にも取上げられるなど、ここ最近海外でもその名が知られるようになった『ホームフード協会』。本拠地はボローニャですが、北はトレンティーノから南はサルデニアまでその活動は全土に広がっています。

この協会の目的はいたってシンプル。“それぞれの地に伝わる家庭の味、郷土料理を守り後世に伝えていく”こと。イタリアが誇る国宝と言って大げさではない、マンマの手料理が途絶えつつあるこの時代に『ホームフード協会』は画期的な存在。エミリア・ローマーニャ州農業推奨課からボローニャ大学、コナードなどの大手スーパーまでがスポンサーとなりその活動を進めています。

郷土料理を提供するのは協会の厳しい審査を通った全国のメンバーたち。レストラン顔負けのおいしい手料理を彼らの家庭で参加者にご馳走するのです。メニューに出されるものは飲み物も含め、全てその土地に伝わる伝統料理でなければならず食材も旬のもののみ。招待される側である応募者もまた、参加するには事前に個人データとともに申し込み、協会のあらゆる規律に同意しなければなりません。ディナーの代金は1人1律39ユーロ。毎月メールで送られてくるカレンダーと各メンバーが提供するメニューを見て、希望するディナーに申し込みます。

先日、ローマの18組の中の1メンバーであるエマヌエラさんとカルロさんのお宅で開かれた【野菜の郷土料理をテーマとしたローマディナー】に参加してみました。エマヌエラさんはローマ市立図書館勤務、カルロさんはイラストレーターで2人とも生粋のロマーノ。

料理からサーブ、お皿洗い全て担当するカルロさん。

郊外のお宅はエマヌエラさんが昔ヴェトナムに住んでいたそうで、アジアンテイストのステキなインテリア。ただ決して広い家ではなくむしろこじんまりしたマンション。この日の参加者は全部で10人。イギリス人コックやアメリカ人フードジャーナリストなど食に興味のある人たちばかりが集まりました。

まずはエマヌエラさんお手製のワインカクテルで乾杯。白ワインに香草セージを半日漬けて、ハチミツを入れ冷たくひやした飲み物。セージのほろ苦い香りとハチミツの甘みが心地よく、食前にふさわしいやさしい味わい。「スーパーで売っている安い白ワインでもおいしく作れるのよ。」というエマヌエラさんのお話に「なーるほど!」ともうさっそく自分でも試したくなります。

ワインもラッツィオ産のもの。MARCO CANEPINETI社のLAZIO BIANCO IGT 。無農薬栽培の土着品種を使った白ワイン。

ローマ郊外のガエタ産の黒オリーブとともに洒落たアペリティフでディナーの始まりです。キッチンからはにんにくやタマネギを炒めるなんとも食欲をそそる匂いが漂ってきました。

おばあちゃんのレシピを再現するカルロさん。この日は小さなキッチンで10人分の料理。

本日のメニューです。

  • Olive di Gaeta ガエタ産オリーブの実
  • Alici marinate al vino e finocchioいわしのマリネ
  • Riso con indivia riccia  アンディーブのリゾット
  • Seppie con i piselli degli orti romani イカとグリンピース、ローマ野菜の炒め物
  • Bietoline ripassate con pomodoro e alici ビートとトマト、アンチョビ炒め
  • Crostata di ricotta al profumo di sambuca リコッタチーズとサンブーカ酒のタルト

- 上写真左から -

ワインビネガーとフィノッキオ漬けいわしのマリネ。マリネ液はワインヴィネガーだけではなく、半分を白ワインで薄めているので酸が強すぎず新鮮なイワシの身の味わいが引き立つ。

透き通るほど薄くスライスしたにんにくが隠し味。

こちらもローマの定番料理。イカとグリンピース、ローマ野菜の炒め物。

エマヌエラさんとカルロさん両人が共同で作るディナーはもちろん全てローマ独特の郷土料理なのですが、中でも面白かったのが“アンディーブのリゾット”。

イタリア風おじや、アンディーブのリゾット。

これはカルロさんが亡きおばあちゃんに教わったという古いレシピ。リゾットとはちょっと違う米料理です。イタリアの名料理は貧しい人々の工夫から生まれたものが多いと言いますが、これもその1つ。たっぷりのバターで米を炒め、ブロードで少しずつのばしながらパルミッジャーノチーズを加え煮あげていく北イタリアのリッチなリゾットとは違うのです。まずはタマネギとにんにく、トマトを炒め、水を加えてスープを作る。これだけ見るとまるでズッパ(スープ料理)のよう。そのスープの中へ米を入れ全ての水分を米に吸わせるまで煮込みます。最後にアンディーブの葉をたっぷりと加えできあがり。これはまさに日本の“おじや”の作り方ではないですか!?バターやパルミッジャーノが手に入らない貧しい農民たちの料理だったそうですが、トマトの酸味とアンディーブのほろ苦味が米によく馴染んで、“イタリア風おじや”と呼ぶべき胃も心も暖まる素朴な一品。今まで何度もリゾットを食べてきましたが、こんな米料理は初めて!しかもローマ料理だなんて、隠れた郷土料理ってまだまだあるものです。

もうひとつ、野菜のおいしさを堪能したのはビートとトマト、アンチョビの炒め物。

ビートとトマト、アンチョビ炒め。

ビートは苦味がなく、わりと淡白な味わいの菜野菜。オリーブオイルににんにくを熱し、トマトとアンチョビ、ぺペロンチーノを炒め、トマトがとろりとなったところへ茹でたビートを入れオリーブオイルでいためます。簡単レシピですが、トマトの酸味とアンチョビの塩辛さとビートが素晴らしい味わいの3重奏。その日のディナーでは特に豪勢な肉や魚料理が出たわけではないのですが、それぞれの料理の背景にあるストーリーや思い出が、さらに料理をおいしく感じるスパイスとなって、とても満足感のある食卓でした。

3匹の飼いネコの存在もあらかじめ参加者にはお知らせしてあります。彼らも来客には慣れている様子。

食事の間ずっと料理の歴史の話からレシピまでいろいろ教えてもらいましたが、これは同じお金を払ってもレストランではできないこと。最後のデザート、タルトはエマヌエラさんのお母さんのレシピ。

エマヌエラさん手作りのリコッタチーズとサンブーカ酒のタルト。

さらに手作りのリキュールが何種類も出てきて夜遅くまで盛り上がりました。

手作りのリキュール。さくらの葉のリキュールがなんとも和風の味わいで美味。その他、くろすぐりやラズベリーのリキュールも。ボトルはわざわざアンティーク屋さんで集め、ラベルは手作りという凝り様。

「私達2人共もともと料理することが大好きなのですが、このホームフードでの収入が正直家計の足しになっているのも事実なんです。」というカルロさん。郷土料理を伝えるだけでなく、会員たちが副業にできるという利点もあるのです。

まだまだ紹介したいローマ料理があるので来月からは違うメニューを提案したいと意気込むエマヌエラさんとカルロさん。

イタリアの雑誌で“全国に広がる秘密のレストラン”として紹介され、新たな食事の楽しみ方を提供している『ホームフード協会』。作る側も食べる側も同じ目的を持って食卓を囲み、天の恵みと先祖の知恵を堪能する。こんな楽しいブーム、日本にも到来しないかな。

ヒサタニ ミカ(野菜紀行レポーター)

京都生まれ京都育ち。
ローマ在住16年。
来伊後、サントリーグループのワイン輸入商社のイタリア駐在員事務所マネージャーを経て、現在は輸入業者のコンサルタント、ワインと食のジャーナリスト、 雑誌の取材コーディネーターとしてイタリア全国に広がる生産者や食に携わるイヴェントを巡る。最近はイタリアでのワインコンクールの審査員も務め、またお 茶や懐石料理のセミナーをイタリアで開催、日本の食をイタリアに紹介する仕事も展開。料理専門媒体にイタリア情報を随筆中。

AISイタリアソムリエ協会正規コースソムリエ。
ラッツィオ州公認ソムリエ。

[ イタリアからお届けする旬の食コラム ]

「ヒサタニミカのイタリア食道楽」

[ 協会データ ]

- HOME FOOD 協会 -

http://www.homefood.it/

Via Broccaindosso 41

40125 Bologna

Tel: (+39) 051 220797

Fax: (+39) 051 220797

E-mail: info@homefood.it

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