グストイタリア野菜紀行

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Episodio15

最新のエノガストロノミー情報を発信するウェブマガジン『GAZZETTA GASTRONOMICA』主催 5大スターシェフによるスープの饗宴

先進国に一足遅れてイタリアでもここ数年、雑誌などの紙媒体よりもネットマガジンの読者が急増している。料理業界でも新しいウェブサイトが続々と誕生し運営者の同士で熱い競合が繰り広げられている中で、今月オープンし既に話題を呼んでいるのがフードウェブマガジン『GAZZETTA GASTRONOMICA ガゼッタ・ガストロノミカ』。ガンベロロッソの創立者ステファノ・ボニッリ氏が中心となって、料理研究家のアンナリーサ・バルバリ氏、ワインジャーナリストのフィリッポ・バルトロッタ氏など海外ジャーナリストも含め業界の著名人たちがチームとなって展開するフードカルチャー全般の最新情報誌だ。イタリア国内外の食材、ワイン、レストラン、シェフ、フードアート、旅とテーマごとに毎日新しい情報が更新されるかなり読み応えのあるウェブマガジン。その『ガゼッタ・ガストロノミカ』の誕生を祝い、世間の注目を集めるにはふさわしい “オープニングイヴェント”が先日ローマで行われた。その催しの舞台となったのはローマの青空市場。ここに特設のオープンキッチン会場をつくり、イタリアを代表する星付レストラン5店舗のシェフによる料理を無償で提供するという前代未聞の催しである。

当日、ネット上での広告で市場は12時の開催時間には地元TV局のカメラマンから近所の買い物客まで、有名シェフの料理を求めて大賑わい。テーマは冬の料理“スープ”。イタリア各地から来た5人のシェフが腕をふるい自慢のスープの“炊き出し”が行われた。

市場に設営された小さなオープンキッチンの中でガスコンロで料理の仕込みをするシェフたち。

まずはアブルッツォ州にあるミシュラン2つ星レストラン『リストランテ・レアーレ』のオーナーシェフ、ニコ・ロミート氏。アブルッツォ風ひよこ豆とチーマ・ディ・ラーパのスープ。

アブルッツォの伝統料理に新風を吹き込んだクリエイティブな料理で高い評価を受けるニコ氏は、トマトソースベースにひよこ豆、カッツァリエーリという地元独特のパスタ(水とセモリナ粉だけで練った卵なしの手打ちパスタで小さなニョッキのような形)の郷土スープにチーマ・ディ・ラーパとセージやローズマリーなどの香草をプラスした一品を披露。

アブルッツォでも郷土野菜であるチーマ・ディ・ラーパを大量に入れる。この野菜のほどよい苦味がスープによいアクセントをつくる。

スープには“カッツァリエーリ”という水とセモリナ粉だけで練った卵なしの手打ちパスタも入ってとってもボリューム感あり。

ひよこ豆はペースト状になってスープに混ぜ込んであり、そのとろりとしたクリーミーさの中に餅のような歯ごたえのパスタがあり、さらに野菜の青々しさと香草のアロマのアクセントも効いた食べ応えたっぷりの“食べるスープ”。

オステリア・デル・ポーヴェロ・ディアヴォロ・ディ・トリアーナ』のピエールジョルジョ・パリーニ氏のスープは“パッサテッリ・イン・ブロード・ディ・ピーネェ”。パッサテッリとはパン粉、卵、パルミッジャーノチーズを練ったものを独特の器具を使って作るパスタでエミリア・ロマーニャ州独特の郷土料理だ。

ピエールジョルジョ氏はこのパスタに季節の旬である栗の粉とすりおろしたレモンの皮を生地に練りこみ、栗の甘みとレモンのフレッシュ感をプラス。ブイヨンには牛すねやマルサラ酒などを入れコクのあるスープに仕上げ味のグラデーションを出している。パン粉のパスタなのでセモリナ粉のような粘り気がなく、ぼろぼろと崩れるような食感が面白い。

地元ラッッオ州からはミシュラン1つ星の『サルバトーレ・タッサ』。香草ボッラージネとシナモンのスープ。

白く四角いジャガイモのような具はなんとリンゴ!ボッラージネだけでなくあらゆる香草が入っていて、それらのほどよい渋みと青々しさをシナモンとほくほくした甘いリンゴがやさしく中和し味わいに奥行きを出している。素材の組み合わせの面白さが一番印象に残ったスープ。

マルケ州の海岸沿いにあるミシュラン2つ星の人気店『レストラン・ウリアッシ』からはマッシモ・ウリアッシ氏。自慢のスープは雄鶏の詰め物の入ったカッペレッティ。

ブイヨンに丁子とローリエがたっぷりと入っていて食欲をそそるなんともいえない芳香が漂う。隠し味であるはずが主役になっていたと言っていいほどスープの香りと味の構成をつくっていたハーブ。こんな小さな即席の厨房で作られたにもかかわらずとてもクリアなスープで、カッペレッティもしっかりしたアルデンテで美味。

そしてモデナからは注目の人マッシモ・ボットゥーラ氏。今年の秋に始めてミシュラン3つ星を獲得。すべてのイタリアンレストランガイドで最高点の評価を持つ今最も注目されている『ラ・フランチェスカーナ』のシェフ。TVのインタヴューで饒舌なトークをしているボットゥーラ氏の横で黙々とスープを仕上げているのはシェフの右腕、徳吉洋二氏。

スープの具材は、とろとろになるまで煮込んだ乳飲み豚の頭に豚足、つくしのような形をしたきのこなど。ブイヨンにもあらゆる野菜や香草がはいってさらに仕上げにペペロンチーノやレモン、すり下ろしたトピナンブールが入るという、スープと一言で言っても奥の深い豪華な一品。

高級飲茶のスープを思わせるようなちょっと東洋の香りが印象的。5大シェフのスープの中で最も洗練されていた。これはモデナのレストランでもメニューに載せている。

どこからかパネットーネ(クリスマスに食べるドライフルーツの入ったパンケーキ)が持ち込まれたかと思うと、なんとそこへスープの具をのせて新しい料理を作り出すボットゥーラ氏。3つ星シェフの即席パフォーマンスに会場が多いに盛り上がりこのパネットーネもまたまた取り合いに。

一流レストランにはこの方一度も行ったことがないという下町のおじさんたちも口々に「おいしいだけでなく体も心もあたたまるねえ。」とうれしそう。

イベントの終了時間を過ぎているというのに長い行列ができ、予想以上の反響に満面の笑みで自らスープを配る主催者のボニッリ氏。

寒い12月の市場の中で行われた熱々のスープの炊き出し。さらなる不景気に例年より暗いクリスマスを迎えようとしているローマの市場にいい匂いの湯気が漂って、ひと時ながらも多いに活気あふれた大成功イベントだった。
スープの力、偉大なり!

GAZZETTA GASTRONOMICA
ガゼッタ・ガストロノミカ
http://www.gazzettagastronomica.it/

掲載レストラン:
RISTORANTE REALE
http://www.ristorantereale.it/
Contrada Santa Liberata
Castel di Sangro (AQ)
Tel +39 0864 69382

OSTERIA DEL POVELO DIAVOLO DI TORRIANA
http://www.ristorantepoverodiavolo.com/
Via Roma 30- Torriana (RN)
Tel +39 0541 675060

OSTERIA FRANCESCANA
http://www.osteriafrancescana.it/
Via Stella 22 – Modena
Tel +39 39059210118

RISTORANTE ULIASSI
http://www.uliassi.it/
Banchina di Levante 6 – Senigallia (AN)
Tel +39 07165463

SALVATORE TASSA
http://www.salvatoretassa.it/
Via Prenestina 27 – Fiuggi (FR)
Tel +39 0775 56 049

ヒサタニ ミカ(野菜紀行レポーター)

京都生まれ京都育ち。
ローマ在住16年。
来伊後、サントリーグループのワイン輸入商社のイタリア駐在員事務所マネージャーを経て、現在は輸入業者のコンサルタント、ワインと食のジャーナリスト、 雑誌の取材コーディネーターとしてイタリア全国に広がる生産者や食に携わるイヴェントを巡る。最近はイタリアでのワインコンクールの審査員も務め、またお 茶や懐石料理のセミナーをイタリアで開催、日本の食をイタリアに紹介する仕事も展開。料理専門媒体にイタリア情報を随筆中。

AISイタリアソムリエ協会正規コースソムリエ。
ラッツィオ州公認ソムリエ。

[ イタリアからお届けする旬の食コラム ]

「ヒサタニミカのイタリア食道楽」

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