グストイタリア野菜紀行

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Episodio18

ヨーロッパで第2位の消費量 イタリア人の半端でない野菜の食べ方

ヨーロッパ共同体の調査によると、イタリアは全共同体27カ国の中で2番目に青果(野菜/果物)を消費する国だそう。1人当たり平均で1日452グラムを消費している。ヨーロッパの平均値は220グラムということなのでイタリア人はその倍にあたる野菜や果物を消費していることになる。ちなみに1位はポーランドで577グラム。日本人はというと平均値で約290グラム。イタリアも日本も南北に長い土壌に青果の栽培にむく気候条件を持ち、季節ごとにバリエーション豊かな野菜が存在するにもかかわらず、なぜイタリア人は私たちの数値をはるかに上回る量の野菜を消費しているのだろう?日本人は外食が多いこと、コンビニ食の普及などが指摘されているけれど、イタリア人も外食を好むし、コンビニはなくともピッツェリアはたくさんあって、TVでサッカー中継を見ながらピザで食事をすます人も多い。主食がパスタやパンの炭水化物で、肉や魚をメインとし副菜に野菜という食スタイルも日本とそうかわりはない。
ではイタリアと日本の野菜の消費量はなぜこれほど違うのか?!
答えはその食べ方。

イタリアの市場では八百屋のおじさんが大きな手で野菜をわしづかみにして袋いっぱいに詰め込む姿があちこちに見られる。買うほうは「Basta バスタ!」(もういいよ!)と声をあげないと袋がはちきれそうになるまで入れてくれる。

 

そしてそのパンパンになった袋を計りにのっけて値段が決まる量り売り。

 

スーパーマーケットでも菜野菜などは500グラム単位での大袋入で販売されている。

 

イタリアの主婦たちはたいていショッピングカートのようなものを持参で買い物に来る。たしかにアレがないと、野菜でいっぱいになった袋はかなりかさばるし、何種類も野菜を買うとその帰り道には引越しでもする人のような荷物の量になって大変。そうして必死に買出しいた野菜たちは食卓の上でサラダやグリル、または温野菜に形を変えてどーんと大皿に盛られて出される。イタリアでの野菜の食べ方はとても単純。だけどたっぷり食べられる秘密がある。
 レストランやトラットリアのメニューでも、野菜のところはたいてい季節の野菜の名前だけが記載してある。ほうれん草、チーマ・ディ・ラーパ、チコリ、カーヴォル・フィオーレなどなど。これは好みの野菜を選んだあと「アグロ」と言って野菜を茹でて塩とレモン、オリーブオイルで温サラダのようにして食べるか、茹でたものをにんにくとペペロンチーノでさらに炒める「リパッサート」のどちらかの食べ方を選ぶようになっている。 いずれにせよ日本にはない調理法で、茹でるといっても“おひたし”のように数秒サッと火を通すのではなく、野菜がクタクタになるまで長時間茹でる。茹でるというより煮るという行為に近い。茹で上がると冷水にとり色止めし、手でその野菜の水気をぎゅっと絞りレモン、塩、オイルでしっかりあえる。「リパッサート」はクタクタに茹でたものをさらに炒めるので2度火を通すことになる。(ちなみに「リパッサート」とは“2度渡る”、“仕上げる”という意味のイタリア語。)

 

最初イタリアに来たころはこのクタクタ野菜に抵抗があった。野菜とは煮物以外しっかりした食感がないと!と思っていた。ところが今はすっかりこのクタクタ野菜のとりこになっている。野菜はとろりとした歯ごたえになり、よりやさしい味わいになる。食物繊維をたっぷりとっている感じもいい。
クタクタに茹でることにより野菜はカサが減り、さらに絞って水気を切るので1人前でもかなりの量である。日本の小皿にちょこんと盛られたおひたしとは全く違う。だから八百屋で1キロ分のほうれん草を買っても1人が2回の食事でたやすく消費してしまうのである。
 そしてこんな野菜料理に絶対に欠かせないものがある。それは良質のエクストラバージンオリーブオイルだ。

 

イタリア人はただ単にオリーブオイルを使うのではなく、日本人が煮物には薄口、刺身には“たまり”など食べるものによって醤油を使い分けるように、彼らもオリーブオイルを使い分ける。炒め物やフライなど調理用には低価格オイル、生食用には高級エクストラバージンオイルというように。さらに同じ生食用の高級オイルでもサラダなどにはライトなもの、肉のグリルや魚料理にはストロングタイプともっと細かく使い分けているイタリア人も少なくない。生の野菜にはもちろん、茹でた野菜にもたっぷりと極上のエクストラバージンをかけるともうそれだけでりっぱなごちそうだ。そしてここで声を大にして言いたいのは、大量生産メーカーのものと、小さな優良生産者の良質オイルは全く似て非なるものということ。高級エクストラバージンオイルとなるともう珍味の域にある。茹でただけの野菜でも塩、レモンそして旬のエクストラバージンオイルがあるだけで、そのおいしさについついたくさん食べてしまうのである。ほっくり茹であげたカーヴォル・フィーレやジャガイモ、ズッキーネやナスをスライスしオーブンでグリルしただけのもの、またミネストローネ(あらゆる野菜を細かく切り、炒めたあとじっくり煮込んだスープ)なんかにこの黄金のオイルをたっぷりとかけて食べてみてほしい。リンゴやバナナのようなフルーティなアロマがふんわりたち、甘いアーモンドやブラックペッパーなどの風味がとろりと絡んで、野菜のうまみを驚くほど引き立たせてくれる。大量生産型の大手メーカーのオリーブオイルで試してみても同じおいしさの効果は全く得られない。私の友人で「カプチーノ以外、どんな料理でも食べる前に必ずオリーブオイルをかける。」という人もいたっけ。また別の友人はトスカーナ産、ウンブリア産、プーリア産など8種類近くの地域別のオリーブオイルを使い分けていて、家に行くといつも棚に並ぶいろいろな形のボトルを自慢げに見せてくれる。

 

彼らまではいかないにしても、やはり野菜をたくさんおいしく食べるコツとして、この良質オリーブオイルによるところは大きい。そのうまみに半端でない量を食べてしまう。クタクタになるまで火を通す調理方とおいしいオリーブオイル。これがイタリアの誇る野菜消費量の秘密といえそうだ。
 オリーブオイルは他の植物油と違い、一切加熱せずに搾汁する、いわば実をしぼっただけの果汁のようなオイル。血中のコレステロールを低下させ、腸の働きを活発化させる効果もある健康食品である。イタリア人にきく「海外に行ったときどんな食材が恋しくなりますか。」というアンケートでは、一番にエスプレッソコーヒー、その次にオリーブオイルだそう。イタリア料理というとパスタやピザをまず思い浮かべるけれど、実はこんなシンプルな野菜料理がイタリア人の一番の定番料理かもしれない。
 最近では日本にも厳選された良質のオリーブオイルがいろいろ輸入されるようになった。ぜひこのクタクタ野菜お試しあれ!

ヒサタニ ミカ(野菜紀行レポーター)

京都生まれ京都育ち。
ローマ在住16年。
来伊後、サントリーグループのワイン輸入商社のイタリア駐在員事務所マネージャーを経て、現在は輸入業者のコンサルタント、ワインと食のジャーナリスト、 雑誌の取材コーディネーターとしてイタリア全国に広がる生産者や食に携わるイヴェントを巡る。最近はイタリアでのワインコンクールの審査員も務め、またお 茶や懐石料理のセミナーをイタリアで開催、日本の食をイタリアに紹介する仕事も展開。料理専門媒体にイタリア情報を随筆中。

AISイタリアソムリエ協会正規コースソムリエ。
ラッツィオ州公認ソムリエ。

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