Episodio17
「もう10年ほど前のことでしょうか。ピエモンテ州にあるコープで働いていたとき、たまたまそこに日本の野菜宅配会社が訪問に来ていました。彼らを通してまだイタリアには存在しなかった新鮮な野菜を農家から家庭へ届けるというサービスを知りました。なんてすごいアイデアなんだろう、ぜひ自分がイタリアでやってみたい!と思ったのがきっかけなんです。私と共同経営者である友人が33歳と38歳のときでした。」『ゾッレ』の経営者シモーナさんはローマ出身。自分の地元に帰りたかったこともありローマで起業を決意、そのビジネスシステムを勉強するために日本へ旅立ったのが2008年のこと。1人であらゆる野菜宅配サービスの会社を訪問した。イタリアに戻り、その後1年間の準備期間を経て友人のギッラさんと共に『ゾッレ』を開業。
「はじめは親戚や友人だけが私たちの客先でした。大体30件くらいでしょうか。スタッフもいなかったので子供をおぶって自分で配達もしていたんですよ。」とローマっ子らしくよく笑うシモーナさん。一度も広告を出し宣伝をしたことがないというこの会社は4年後1100件の配達先ができるまでに成長。口コミだけで広がったこのサービス、いまだ300件のファミリーが顧客登録待ちという人気ぶりだ。
シモーナさんにその人気の秘密を聞いてみた。「やはりローマは大都市であり共働き夫婦も多く、買い物をせずにいろいろな季節の食材が届くサービスは便利であり需要が高いこと、また私たちが今や消費者が敏感になっているトレーサビリティの情報を提供していること、無農薬栽培の製品のみを取り扱っていることも大きいと思います。」そんな『ゾッレ』のサービスの特徴はこの3つ。 ①鮮度:農家を出荷してから24時間以内に客先へ納品。 ②生産地:取り扱い製品の90%が地元ラッツィオ州の農家のもの。大量生産型ではなく小さな生産者のものが大半。 ③トレーサビリティ:すべての製品に生産者名、生産地、農法、レシピのデータ提供。 この他にも客先より希望があれば仕入先農家の訪問も可能。「生産者と消費者の距離をより近くすることが間に立つ私たちの使命です。」とシモーナさん。
またローマは消費者マーケットの大きさだけでなく、意外なことに野菜を提供する生産者の数も多いという。ローマはイタリアで最も農家の多い県であることから優良生産者より商品を仕入れやすいということも『ゾッレ』の利点。仕入先である契約農家は約70件。食べる人にその食材がどんなところで作られているのか知ってもらうためホームページにも彼らの紹介が写真つきで詳細に掲載されている。
配達食材は『ゾッレ』がその時々の季節の野菜を中心にセレクトしているが、ほうれん草やチコリなどのイタリアの定番野菜以外にも水菜やカブなど一般にはあまり販売されていない野菜を必ず入れる。これは「毎回どんな野菜が届くのか、自分では買ったことがないような知らない野菜をどう料理するか考えるのが楽しみ。」という顧客の反応が多数あることから。たくさんの仕入先農家と提携しているからこそこのように顧客を飽きさせない多様な商品提供も可能である。『ゾッレ』に配達サービスを頼んでから野菜をたくさん食べるようになったといううれしいコメントも寄せられる。『ゾッレ』の品揃えは野菜以外にも、フルーツや豆・雑穀類、精肉、チーズ、卵、お菓子、はちみつもあり、もちろん加工食品も無添加製品のみ。
客先への配達は週一回。注文サイズは大(7-8種類の野菜・フルーツと肉、卵、チーズ/57ユーロ)、中(4-5種類のフルーツと肉、卵、チーズ/37ユーロ) 、小(3-4種類のフルーツと肉、チーズ/27ユーロ)の3種類。
大、中はファミリー向け、小はシングル向けという構成。そしてそれぞれのサイズにベジタリアンヴァージョンもある。配達は自転車とトラックで行われるというのもおもしろい。
日本人のアイデアを借りゼロからはじめたこのビジネス。数年の間に予想以上の反響で顧客が広がりスタッフも増え会社は大きくなった。農家を回り仕入れ食材を選び、倉庫で男性スタッフに大声で指示を出すシモーナさん。近い将来『ゾッレ』の素材を使ったお惣菜も商品リストに加えたいと計画中。メニューはパスタソースやミネストローネなどあくまで野菜が主役。新しいビジネスアイデアはいろいろある。「若い農業家たちと一緒にもっとおもしろいコラボレーションを展開していきたい。自分たちがやったようにもっと若い人や女性が農業で起業する可能性は大いにあります。」と意気込む。クリエイティブさと迷いのない行動力に人一倍のやる気。農業に将来をかける女性シモーナさんの存在がとっても眩しく見えた。
ZOLLE ゾッレhttp://www.zolle.it/web/
ヒサタニ ミカ(野菜紀行レポーター)
京都生まれ京都育ち。
ローマ在住16年。
来伊後、サントリーグループのワイン輸入商社のイタリア駐在員事務所マネージャーを経て、現在は輸入業者のコンサルタント、ワインと食のジャーナリスト、 雑誌の取材コーディネーターとしてイタリア全国に広がる生産者や食に携わるイヴェントを巡る。最近はイタリアでのワインコンクールの審査員も務め、またお 茶や懐石料理のセミナーをイタリアで開催、日本の食をイタリアに紹介する仕事も展開。料理専門媒体にイタリア情報を随筆中。
AISイタリアソムリエ協会正規コースソムリエ。
ラッツィオ州公認ソムリエ。
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