グストイタリア野菜紀行

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Episodio13

ローマ最大の中央青果卸売り市場  夏レポート

イタリア共同通信社ANSA(アンサ)が、イタリア人の4人に1人が家庭菜園を持つというデータを発表した。家庭菜園をしている人のうち73%が香草、73が%花、39%が野菜の栽培をし、庭やスペースがない人は植木鉢を家やオフィスに置いて家庭菜園を楽しんでいるという。つい最近までは作物の栽培に興味を持つのは高齢の人と限られていたのがこのところ若者がダントツに増えている。菜園初心者の増加にともない「パーソナルトレーナー」と呼ばれる栽培を指導してくれるプロのアルバイトも求人が増えた。9月から衛生放送SKYスカイで放映されている2人のイケメン指導者が、一般の愛好家に作物の植え付け方や水やりなどを手取り足取り教えるという自家菜園番組も高い視聴率で人気を呼んでいる。

“ORTO MANIAオルトマニア”=菜園マニア、という言葉までできるほどこのところ各地で畑ブームが確実に広がっているのである。

現ローマ市長アレマンノ氏

現ローマ市長アレマンノ氏もオルトマニア初心者の1人。首都ローマの市役所カンピドーリオにスローフード協会の協力でローマ市民のための地域菜園設立プロジェクトが進んでいる。今後市内22箇所にローマ市民が自由に野菜や花作りを楽しめる共同農園を設立する予定。1人暮らしの熟年層や老人だけでなく、学校の課外授業を行い子供たちが畑でできる野菜や花と触れ合う場所としての活用など、今までにはなかった市民のための空間作りを目めざす。

フランス自動車メーカー「プジョー・イタリア」

社会福祉だけではなく、環境改善としてのグリーンプロジェクトも大々的に広がりを見せている。フランス自動車メーカー「プジョー・イタリア」は、新車IONの発表にミラノの市内のど真ん中に野菜畑を作り上げ、そこに展示された車体の上にもミニガーデンを敷き詰めて、エコカーとしてのイメージコマーシャルを展開。フィアットもミラノの高級ブティック街モンテナポレオーネ通りにオープンカーをズラリと並べ、なんと車をそのまま植木鉢にして1台ずつ車に木が植えられた形のオブジェを期間限定で展示するなど、車とグリーンの共生をテーマとしたプロモーションは今や業界で不可欠となった。
自治体や大手企業が投資を始めたこのグリーンムーブメント、実は数年前からローマやミラノですでに一般市民によりすでに広がりつつある動きでなのである。 

ローマにある建築事務所「STUDIO UAP」。

首都の環境開発プロジェクトの仕事を請け負うこの事務所が昨年立ち上げたのが“ZAPPATA ROMANA ザッパータ・ロマーナ”=ローマで鎌おこし、という面白いネーミングの協会。「STUDIO UAP」のルカ氏は環境開発の仕事のため、地域リサーチをしているうちにある興味深い事実に気がついた。ローマ各地に点在する野原や荒野をその地域の人々が無断で勝手に耕して畑をつくったり、または公園にしたものをローマだけで70箇所も発見した。さらにその違法行為で始まった共同農園に今度は市や州が許可を出しいくつかの場所では投資も始まり、さらに充実した菜園が各地に生まれているという現状があちこちに!そこで誰も把握していなかったこの現象を取上げ、ローマの共同農園マップを作り“ザッパータ・ロマーナ”というWEBサイトを立ち上げた。

ローマの共同農園マップ

すると事務所に問い合わせが殺到、自分の土地を共同農園に寄付したい、最寄の農園を教えて欲しいなど毎日電話の対応に追われるようになった。共同農園同士が情報交換を始めたりとうれしい成果がたくさんある。ローマやミラノの大都市で野放しにされている土地に畑が生まれ、その近所の人たちが寄り集まって作物を育てたり、週末には野外バーベキューやピクニックが行なわれる。

「中には農園の中にミニサッカー場を作った地域や各家庭で出た生ごみを持ち寄り堆肥にしたり、本格的な野菜のビオ栽培を行ったり、プロ顔負けの真剣な農耕をしている地域もあります。

さらに市内にあるプラート・フィオリート地区の畑ではワイン用のブドウ栽培を始め、本格的なワイン作りに成功、そのワインを販売したお金でアフリカ難民に井戸を寄与するということまで成し遂げました。」とルカ氏。

プラート・フィオリート地区の畑

「はじめは私達も驚きました。だってプラート・フィオリート地区を含む70箇所の農園は、自治体がプロジェクトをたててできたものではなく近所の人の寄り合いによって自然に生まれたものなんです。こうやって私達がデータ化しましたが、それまではそれぞれの菜園は自治体にも誰にも知られずにその付近の人たちだけで運営されていたのです。でも1人暮らしの老人や無職の若者、子供連れのお母さんなんかが朝から集まってみんなで野菜をつくれる場所というのは今のイタリア社会にとって実はものすごく大切な空間。1日中もくもくとひたすら一人で畑を耕しているかと思うと、そのあとは一度も姿を現したことのない人や、一度畑仕事を体験してみたかったとストレス解消にぶらりと共同農園に立ち寄る若者もいるんです。みんな少しずつお金を出し合って新しい苗を買ったり、できた農作物を町内で分け合ったり。そういう行為を通して地域に小さな共同体がたくさん生まれています。」できるだけ自由なスタイルで運営するこの共同農園はどんな人でもいつでも参加でき、登録や入会金も不要。「また最近の世界情勢を見ても自分たちの環境は自分たちが守って行かなければならないというみんなの思いを強く感じます。これらの共同農園の誕生は、政府の指示を待つのではなく自ら行動を起こし他人任せでない環境作りを行うということを証明した貴重なムーブメントだと思います。鎌を持って畑を耕すという人間的な行為が、実は大切な意味のあることをこのザッパータ・ロマーナを通して現代人に訴えたいですね。」スタジオUAPでは初心者向けに野菜栽培マニュアル本も作成した。
ザッパータ・ロマーナマップの上にきのこのように点在する緑の空間。ルカ氏が言うようにこれはただの偶然の現象ではない。共同農園は現代のイタリア人が本当に求めるものを形にした希望のオアシスなのである。

データ
STUDIO UAP
http://www.zappataromana.net/

ヒサタニ ミカ(野菜紀行レポーター)

京都生まれ京都育ち。
ローマ在住16年。
来伊後、サントリーグループのワイン輸入商社のイタリア駐在員事務所マネージャーを経て、現在は輸入業者のコンサルタント、ワインと食のジャーナリスト、 雑誌の取材コーディネーターとしてイタリア全国に広がる生産者や食に携わるイヴェントを巡る。最近はイタリアでのワインコンクールの審査員も務め、またお 茶や懐石料理のセミナーをイタリアで開催、日本の食をイタリアに紹介する仕事も展開。料理専門媒体にイタリア情報を随筆中。

AISイタリアソムリエ協会正規コースソムリエ。
ラッツィオ州公認ソムリエ。

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「ヒサタニミカのイタリア食道楽」

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